【アリッサ】ミクモの小屋に入る
「やめろ、ミクモ」
レンは、降り注ぐ石つぶてを懸命に振り払っている。
「はーっ、はっは。
どうした?
火の魔法使いよ、炎を吐き出してみろ。
いつものお前なら、こんな小石、吹き飛ばすじゃないか」
土の魔女は大口を開けて笑っている。
「お願いです。攻撃をやめて」
あたしは一歩前に出ると、土の魔女に一礼した。
社交界で行う、正式なお辞儀をする。
「ベルナルド家のアリッサといいます。
屋敷がタダールの兵士に攻めこまれました。
どうか、少しでいいので休ませてください」
頭を下げる。
「なに......ベルナルド家の?」
土の魔女はふるっていた杖を下ろすと、ポカンとした顔であたしをみた。
「そうだ、ミクモ。
彼女はベルナルド家のご令嬢、アリッサ・ベルナルドだ」
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「そういえば昨日、タダール兵が大群でフレスコの街を通過した。
遠征かなにかかと思っていたんだけど」
「そのときベルナルドの領地に向かう途中だったんだろうな」
レンがミクモの言葉にうなずく。
土の魔女ミクモは、レンとあたしを丸太小屋の中に入れてくれた。
小屋の中は、暖炉に温かな火がともり、ふかふかの真っ白なラグが敷かれた居心地の良い空間だった。
「お前の力を持ってすれば、タダール兵などひと捻りだろう?
なぜ逃げてきたんだ、レン......」
「......」
レンはミクモの問いに黙っている。
「......ふん.......。まぁいい。
それで、こちらのお嬢さんを連れて逃げているわけか。
お前が人間と親しく行動するなんて珍しいんじゃないか。
いったい、このお嬢さんとどういう関係だ」
ミクモはあたしに視線をむけた。
「アリッサは俺の......子どもみたいなもんだ」
「意味が分からん。
人間と深く関わるなんて、お前はどうかしている」
ミクモはレンを睨みつけている。
「アリッサ。
お前はこのさき、レンと逃げ続けるつもりか」
ミクモがあたしに問いかけた。
「あたしは屋敷に戻って戦いたい。
父や母が心配なんです」
「お前の父と母は、おそらくもう生きてないだろう」
ミクモの言葉にあたしは息を呑む。
「ミクモ!!適当なことを言うな」
レンが慌てて叫ぶ。
「だって、そうだろう。
侵略とはそう言うものだ」
「......そんな,,,,,,レン......あたし、屋敷に戻る」
あたしはフラフラと立ち上がった。
「今、戻っても危険なだけだろう。
もしどうしてもというのなら、折を見て、生き残りの兵士や民衆を束ねて反乱するしか無い」
「そんな」
「アリッサ。まだ分からない。
タダールの狙いがなんなのか......それを探らなければ」
ミクモは、あたしとレンの前にコップを置いた。
いい香りがする。
ハーブティーのようだ。
「聞くんだ。タダールはおかしい。
数年前から怪しげなハナシばかりが流れてくる」
ミクモがレンの瞳をまっすぐ見て口を開いた。
「怪しげなハナシ?なんだ、それは」
「とつぜん現れた神官が、タダールの領主を操っているとか......
領主は、いまやひどくやつれ、生きる屍と化しているとか......
そう言う話を聞く」
「神官.....神官が領主を操っている.......?」
あたしはぼんやりと数日前のことを思い出していた。
あたしの誕生日パーティに出席していた、銀髪の神官。
手を握ったら、ひどく冷たかった......あの男。
彼はたしか「タダール城に仕える神官」と言っていた。
あの男が関係しているんだろうか。




