【レン】可愛らしい女に変化【アリッサ】ルタナイトのネックレス
【レン】
魚市場、パオラマの裏側。
目立たない場所に急な坂道がつくられている。
その坂道は、市場の地下へと飲み込まれるように続いていた。
(あの坂道の先に、オークション会場の裏口......つまり出品者むけの出入り口があるんだな)
「出品は、あと少しで締め切りだよ!
今日がオークション最終日!ひと儲けするラストチャンスだ」
そんなことを口走りながら、数人の男たちが俺とエレナのわきを、急ぎ足で通り過ぎていった。
男は、黄金の鳥の入ったカゴを手にぶら下げている。
一攫千金をねらって各地の秘境で珍獣をねらうハンターだろう。
やつらは金目になりそうな生き物を集めてきては、年に一回開催されるオークションに出品するのだ。
(まずいな...はやくしないと。
出品が締め切られてしまう)
なかなか女に変化しない自分の体を眺める。
だが......やがて......身体がムズムズしはじめる。
「ウォーカー殿、一体、どういう作戦なのか教えて下さい」
俺をじっと見つめていたエレナの目がパッと見開かれた。
「ウ、ウォーカー殿?様子がおかしいです......」
「......レザナスのリアムにもらった薬を飲んだんだ」
ぐんぐんと背が縮まり、髪が伸びるのを感じる。
服の手足はブカブカになったが、胸が突き出てきて苦しい。
服の裾や袖を何重にも折り曲げた。
「エレナは......出品者だ。
俺を買い取って売り飛ばそうとしている、あくどい男のふりをするんだ。
......失礼、エレナは女性だったな。つい忘れるんだ......いや、ごめん」
俺は、エレナをいつも男として見てしまう。
彼女は髪も短いし、いかつい体つきだった。
いまや、俺の見た目は女だし、エレナの見た目は男だが中身は女だし......。
とても、ややこしいことになっている。
「い、いえ、良いんです。男に見間違われるほうが、私にとっては嬉しいことで」
エレナが俺をじっと見つめたまま視線を外さない。
「なんだよ?なんかオカシイか?」
俺は不安になって自分の顔に手を触れ、髪の毛をなでつけ整える。
「その......あまりに可愛らしい姿なので、びっくりしています」
「ははっ。そうだろう?」
俺はエレナの前でくるりと一回転してみせた。
「さすがエルフがつくる秘薬......。その効果に驚かされますね。
しかし秘薬そのものを出品することもできたのでは?」
「それは無理だ。1錠しか無いのだからな。
出品審査で薬の効果を見せろと言われたら、飲むしか無い。
飲めば薬は無くなってしまう」
エレナはまだ考え込んでいた。
「しかし、可愛いだけではこの特別なオークションの......しかも最終日に出品してもらえるかどうか。
よくある人身売買のオークション会場とはワケが違いますからね」
エレナが不安そうな声で言った。
「わかってる......秘策があるんだ」
俺はエレナに自分の作戦を話しながら、パオラマの地下へ続く坂道を急ぎ足で進んだ。
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【アリッサ】
オークション会場に入り込むことができた。
(お母さまから譲り受けたペンダント。
手放すのは悲しいけど)
あたしはペンダントを出品することにしたのだ。
ルタナイトでつくられたこのペンダントは、世界に3つしか存在しないと言われている。
そのうちの一つは、先の大戦で持ち主ともども暗黒の裂け目に落ちて失われ......。
もうひとつは、ゴーレムが飲み込んで土に還ってしまったらしい。
だから、今.....ルタナイトの石を持っているのはあたししかいないはずだった。
「ほんものだ!ルタナイトで間違いない」
オークション会場の裏側......出品物の審査をする「遺物鑑定師」が叫び声を上げた。
「おぉ......」
周囲にいた人々がザワザワとし始めた。
「まさか、ルタナイトが出品されるなんて」
「かなり貴重なものだ。
なぜ......あのヒゲ面の大男が持っているんだ?
あいつ、相当の手練れだな」
そんなささやき声も聞こえてきた。
「このネックレスを出品させてもらうわ!
会場に早く入れてちょうだい!」
あたしは大声で叫んだ。
早く会場に入りたくてたまらなかった。
いくつかの書類にサインする。
落札された場合の出品者の取り分や、虚偽があった場合の罰則などが細かい字で書かれている。
ろくに目を通さずに、サインした。
「どうぞ、お入りください」
係の者にそう言われ、あたしとユーシンは入口に入ろうとした。
しかし
「お前はダメだ!」
「なんだと?」
ユーシンが止められてしまう。
「会場に入れるのは、出品者だけだ」
「奥さ.......いえ、アーリーさま!」
ユーシンが叫ぶ。
「わたしが会場に入ります」
ユーシンは、そう言い張ったが
「ダメだ!お前は外で待ってるんだ」
係の者に取り押さえられてしまった。
あたしはユーシンに向けて、目で合図した。
(リックを絶対に取り戻して見せる!
あなたは外で待機していて!)




