【アリッサ】眠れないと思っていたのに
(パパ、ママ......無事でいるかな?
大丈夫かな。)
両親のことが心配だった。
それに侍女のヘレンや隊長のシュウ。
ウチで働く人々。
みんな無事かな。
今は逃げ出してしまったけど。
いずれ屋敷に戻って、敵討ちをしてみせる。
それまで、みんなお願い......無事でいて
あたしは心のなかで祈りを捧げながら、ブルブルと震えた。
洞窟の中は凍えるような寒さだった。
空腹もひどかったけど、それよりも寒気でどうにかなりそうだった。
「アリッサ」
レンが急に体を寄せてきて、あたしは驚いた。
彼は、頭をなでたり、抱きしめたり......ときには優しく頬にキスをしてくれる。
でもどれも、彼なりの家族としての愛情表現のようだった。
彼は今まで、一緒に寝ようとはしなかったし、恋人のように体に触れることは、決してしなかった。
(レン......あたしに触れてくれるの......?)
ドキドキしながら、彼の身体に身を寄せる。
「こうして、くっついていると温まる」
彼がそう言うのを聞いて、ガッカリした。
彼はあたしを温めるために抱き寄せてるんだわ。
やっぱりあたしのことを、子どもだと思っている。
「俺の体温を利用すればアリッサは温かくなって眠れる」
レンはそんなことを言っているけど、絶対に、あたしは眠れないと思う。
だって、パパやママのことが心配でたまらないし、ここはとても寒い。
草を敷き詰めたけど、岩の上は固くて冷たかった。
彼の温かい体温が伝わってきた。
(あったかい)
思わずレンの背中に手を回してぴったりとくっつく。
彼の匂いがして、妙に安心した。
絶対に眠れないと思っていたのに。
レンが抱きしめてくれて、あたしは安心しきった。
いつのまにか、眠り込んでしまったようだった。
-----------------------
翌朝。
「あの家がそうだ。
結界が張られていると思うんだけど」
レンが前方に目を凝らしている。
森の奥深く。
獣道を進んだ先の、さらに道なき道をすすむと、急に開けた場所に出た。
そこに、マツの木を組んでつくった丸太小屋が現れたのだ。
「妖精が住んでいそうな家ね」
「妖精じゃなくって魔女が住んでる。
それも性悪な......土の魔女だ」
「土の魔女!?」
そのとき
ドゴン!!
「キャッ」
あたしは思わず叫んで後ずさった。
足元に大きな石の塊が落ちてきたのだ。
「あいつだな」
レンは剣を構えた。
「いるんだろう。姿を表せ。ミクモ」
レンが叫んだ。
すると、今度は石つぶてがレンに降り注いだ。
レンは剣を振り回して、石を跳ね返す。
「おふざけは終わりだ。
おい!!お前の家で少し休ませてほしいだけだ」
「レン。
なにも言わずに姿を消したあんたを忘れた日はなかったよ。
急に戻ってきたと思ったら、女連れか!!」
そう言うと、土の魔女は姿を現した。
背が高く、茶色い瞳にチョコレート色の肌。
「レン。あたしのこと、あんたは捨てたんだ」
彼女はそう言うと、杖をふるった。
レンの頭に石つぶてが降り注いだ。




