【レン】こっそり会いに行く【アリッサ】疑い
【レン】
俺はアリッサの目を盗んではリックに会いに行き、あの子を抱きしめたり、一緒に遊んだりした。
(もしも、アリッサのお腹に自分の子どもが宿ったら......。
やっぱりリックより、可愛い、愛おしいと感じてしまうのだろうか)
リックは俺の顔を見上げながら「キャッキャッ」と機嫌よくおもちゃで遊んでいた。
(アリッサが許してくれるなら、子どもは何人だってほしいな......。
だってこんなに可愛いから。
でも自分の子どもが出来たとしても絶対にリックと比べたり、贔屓したりしない。
どの子も平等に愛する自信がある)
「リック......パパが来たよ」
リックになんとか「パパ」と呼んでほしくて何度も、呼ばせる練習をしていた。
でもリックは、いつもキョトンとした顔で首を傾げるだけだった。
------------------------------
【アリッサ】
(なによ!レンは全然、謝ってこないわ)
彼と同じ寝室で寝ることをやめてもう、数週間。
いずれ、レンの方から許しを乞いに来ると思っていたけど。
(彼は平然としていて、ちっとも謝らない)
あたしが恋しいとか......そう言うことは思わないのかしら。
あたしは正直言って、レンのことが恋しかった。
はしたないことだけれど、彼に抱きしめて欲しい......そう感じていた。
もっと言えば、彼に深くキスして、優しく触って欲しい。
ベッドの上で、彼に上に乗られてその重みを感じたいと思っていた。
あぁ。
どうしちゃったんだろう。
リックのことであんなに怒ったくせに、体は彼を欲しがっている。
レンが頭を垂れ、あたしに謝ってくれたら良いのに。
そして、「アリッサがほしい」と耳元で囁いてくれたら許してあげるんだけど。
あたしは、彼とイリーナさまの仲を疑っていた。
彼は、王宮でイリーナさまと何かあったのかしら......。
イリーナさまと一緒に舞踏会に招待して、踊ったのよね。
あたしはレンとパーティに出たことなんて一回もないのに。
「イリーナさまなんかに、興味はない。
好きなのはアリッサだけだ」
そうハッキリと言ってほしかった。
それに、一番はやっぱりリックのこと。
「俺が間違っていた。
女王には、すぐに断る」
そう言って欲しい。
たとえ女王と敵対することになったって、リックを傷つけるよりは100倍良いわ。
あたしはあの子の体に傷をつけたくないし、あの子を絶対に危険にさらしたくない。
------------------------------
午後......ふと、窓の外を眺めていると背の高い女性とレンが、庭を歩いているのが見えた。
女性の横顔が見える。
細身で透き通る肌が美しい金髪の女性だった。
「あの女性は誰なの?」
あたしは側にいた侍女に聞いてみた。
「あの方は......町外れに住む商家マドラー家の奥さまのレティナさまだと思います。
先日、旦那様を亡くされて......今はお一人でマドラー家を切り盛りされていると聞きます」
「まぁ、そうなのね」
レンにより掛かるようにして歩く女性の背中を凝視する。
彼女はレンの腕をつかんでいた。
(やけに、馴れ馴れしいわね)
実際、収める税金を安くしてもらおうと、色仕掛けをしてくる女は昔から多かった。
父の時代からそういうことが頻繁にあったのだ。
(レンには、色仕掛けなんか効かない......わよね......)
あたしは、窓を勢いよく締めるとカーテンを閉じた。




