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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
リチャードの奪還と能力と
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【アリッサ】イリーナさまとレン


「話さなきゃいけないことがある」


レンはそう言ったあと「ふぅ」と深い溜め息をついた。

そして、黙り込む。


(よほど......言いにくいことなのね)

あたしは、ゴクリとつばを飲み込んだ。


----------------------------------------


「女王の妹君のイリーナさまが......!?」

レンから聞いた話は驚くべきものだった。


イリーナさまは、たしかまだ10代.....。

あたしよりお若いはずだった。


そのイリーナさまが、レンの話では、ご病気であと数年の命だと言うのだ。


「そのこと、イリーナさまご本人は、知っておられるの?」


レンは首を横に振った。

「女王と、治療師、術師くらいしか知り得ない情報だ。

あと知っているのは、俺とエレナくらいかな。

本人には、とても言えないだろう」


「そうよね......。

女王陛下もお気の毒だわ。

夫君のルーベンさまも数年前に亡くされたばかりだと言うのに」


「そうだな」


レンは、遠くをみつめている。


彼の横顔をあたしは眺めた。

きれいな鼻筋に形の良いくちびる......瞳は暗く、不安そうに揺れ動いている。


風がふいて、彼の前髪が揺れた。


(どうして、あたしにイリーナさまのご病気のことを話すのかしら......)


あたしが訝っていると、レンがまた口を開いた。

次にレンが口にした言葉に、あたしは混乱してしまった。


「女王はリチャードの生き血を欲しがっている」

レンはそう言ったのだ。


-----------------------------------


レンの話は、こうだった。


イリーナさまがいよいよ死の淵をさまよい始めたら......。

女王はリチャードの生き血をイリーナさまに与えるつもりでいる。

それしか、イリーナさまを救う方法は無いのだと......女王はそう考えている......。


「確かに大蛇の生き血には、死の淵にいるものを生還させる力があるわ。

でも待って......どうして女王は知ってるの。

リックが......この子が大蛇の子どもだということを」


リックが、大蛇とあたしの間にできた子どもだということは、限られた人にしか打ち明けていない。

知っているのはお父さまとお母さま.......それにレンだけだ。

レンの妹のニナやその夫のディルにさえ、話していないことだった。


「ウチの屋敷の内部に女王の手先がいるらしい。

女王はそこから情報を得ている」

「なんですって......」


ウチの屋敷の内部に女王の手先が!?

そんな......まさか......でも......。


確かに、出産の最中にあたしは痛みと辛さのあまりに口走ったことがある。

「レン......ごめんなさい。あなたの子どもじゃないのに」

お産の最中、励ましてくれたレンにむかって、そう言ったのだ。

その言動は、お産を手伝っていた産婆や、侍女たちが見聞きしている。


さらには、銀髪に灰色の目をしたリックの見た目......それに背中にあるヘビのウロコ......。

リックが大蛇の子どもだということは、そのあたりからも、推察できる。


乳母や侍女がスパイなのだろうか。


いいえ、そうとも限らないわ。

乳母や侍女たちが、うわさ話として別の親しいものに話せば、その話はどこかへと広まるだろうし。


「誰がスパイなのかは、わからないわね......」

あたしがポツリと呟くとレンは頷いた。

「スパイ探しをするつもりはない。

魔女狩りのようなものになってしまうし、今いる使用人や兵士を全員追い出すことは出来ない」


しばらく無言が続いた。

やがてあたしは、恐る恐る口を開いた。


「レンは......もちろん断ってくれたのよね?

リックの生き血なんて、だめに決まってるもの。

この子はまだ、赤ん坊だし」


レンは、リックの世話をしてくれている。

彼なりにリックのことを愛してくれているのだと最近は、感じていた。

だから、当然......女王の頼みを断ってくれているはず......。


あたしはレンの顔をじっとみた。


レンの表情は暗いものだった。


「レン......まさか」

あたしは震える声で彼に尋ねる。


「まさか、リックの生き血を差し出すつもり?」


「いや......。

女王にはアリッサと相談すると言ってあるんだ」


「相談!?」

あたしは大声を出した。


「相談なんかするまでもないわ!

リックから血を抜くなんてダメよ。

小さな子だもの、血が止まらなくなって死んでしまったらどうするのよ!!」


涙がボロボロと流れ落ちる。


レンに裏切られた気分だった。


やっぱり彼は、リックの実の父親じゃないから。

だから、「相談する」

なんていう軽い返答ができるんだわ!

本当の父親なら、即「断る」はずだもの。


「アリッサ、落ち着いて」

「落ち着いてなんかいられない!

いやよ。リックを傷つけるなんて、絶対に嫌!!」


大声を出したせいで、スヤスヤと眠っていたリックが目を覚ます、

そして激しく泣き出してしまった。


レンが、慌ててリックを抱き上げようとする。

でもあたしは彼のことを、グイッと押して、リックに触らせないようにした。


「レン......ヒドイわ!

リックは絶対に女王なんかに渡さない。

女王は気狂いと呼ばれていて、何をするかわからないもの。

それはレンも分かっているでしょう!?

あなたは、あの女王に王宮に何ヶ月も足止めを食らわされたのだから......」


「ふわぁああーん、わぁああん」

リックが激しく泣き叫ぶ。


あたしは立ち上がるとリックを左右に揺らしてあやした。


「アリッサ、聞いてくれ......

イリーナさまは、王宮で俺を何度か助けてくれたんだ。

それにとても良いお方で......」


あたしは、レンの言葉にカチンときた。


エレナから聞かされていた。

レンは、あたしと離婚してイリーナさまと結婚するように女王に勧められていたということを。


なぜはっきりと断って、さっさとベルナルド領に帰ってこなかったのか。

そのことも、少し疑問に思っていたのだ。


「もしかして、レンはイリーナさまのことが好きなの!?」

「はぁっ?」

レンは目を丸くしている。

「何を言うんだ。

そんなわけないだろう」


あたしの目から涙がボロボロと止まらない。

リックも泣き叫んでいる。


「もういい!屋敷に帰るわ!」

あたしは、リックを抱いたままレンにそう言い放つと彼に背を向けた。




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