【レン】洞窟で一夜を明かす
「レン......少し......つかれた」
街の外にでると、アリッサとふたり森の中を歩いた。
「がんばるんだ。
もう少し街から離れないと」
街から逃げ出した他の住民たちは、港町アクティスを目指すものが多いようだった。
おそらくアクティスから船に乗って、南に渡るものが多いのだろう。
南部は平和が続いていて、よそ者も受け入れてくれるというハナシだった。
正直、俺もアリッサを連れて船に乗って南部に逃げたい。
だが、アリッサは両親のことを気にしている。
「俺たちも港に行って船に乗る?」
ダメ元で聞いてみたけど、アリッサは首を横に降った。
「だめよ。故郷から離れるわけには行かない」
「分かってる。聞いてみただけだ」
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「あと10キロほど歩くと、俺の知り合いの家があるんだけど」
アリッサが急に立ち止まる。
「レン、あたしはもう歩けない」
そう言うとしゃがみこんでしまった。
「あたしを置いていって」
アリッサはそういうと森の小道に座り込んだ。
「そんなこと、できるわけない。
さぁ、背負うから」
そう言って、しゃがみこむと彼女に背中を見せる。
「抱き上げるより、おぶったほうが、早く歩けるだろう」
アリッサは無言で俺の背中にしがみついた。
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早く歩いたが、日が暮れてきてしまった。
夜道を歩くのは危ない。
魔物や夜行性の動物が現れると危険だった。
「これ以上歩くのは危険だ。
この近くに洞窟があるから、そこで休もう」
小道をそれて、山側の方へと向かう。
「レンは森の中の道にも詳しいのね」
「何年生きてると思ってるんだ」
「だって、見た目はあたしと同い年くらいだから。
いつも忘れるのよ。レンが......その......」
「ハハハ。年寄りだってことをか?」
俺は苦笑いする。
「年寄りだなんて言ってない!」
アリッサはすねたような口調でいった。
たぶん俺の背中で頬をふくらませてるんだろうな、と想像する。
可愛いアリッサ。
必ず守って見せる。
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「薄暗いわね」
洞窟に到着すると、アリッサを背中からおろした。
途中の小川でくんだ水を彼女に飲ませる。
「奥の方まで行ってみたことはないんだ。
危険だから入口のあたりで休んだほうが良い。
俺は起きてるから、アリッサは安心して寝るんだ」
「でも......レンも休まないと」
「大丈夫だ。
明日、知り合いの家に着いたら、休ませてもらう」
「......」
夜になると気温がぐっと下がる。
アリッサは震えている。
「寒い......」
「こんなことになるなら、毛布とか、食料も持ってくるんだったよな」
アリッサがひどく震えていることに気づく。
おそらく夕飯を食べていないので空腹も手伝って体温が下がってしまっているのだろう。
岩に寄りかかって座り込んでいるアリッサに身を寄せるとギュッと抱きしめた。
「レン?」
月明かりに照らされているアリッサの顔をみる。
「こうして、くっついていると温まる」
彼女の肩に手を回して、頬をなでた。
敷き詰めた草の上に彼女はゆっくりと横たわった。
俺も一緒に横たわる。
「レンの屋敷で......怖い夢を見たとき、一緒に寝てくれなかったよね。
今日は寝てくれるの?」
「俺は眠らないけど。
俺の体温を利用すればアリッサは温かくなって眠れる」」
「うん......」
アリッサは俺の背中に手を回すとぴったりとくっついた。
俺はなぜだか自分の鼓動が早くなるのを感じた。
(なにを興奮してるんだ。
アリッサは子どもじゃないか)
彼女の体温が俺にも伝わってくる。
柔らかい彼女の体の感触が自分の体に感じられる。
ドクン、ドクンと落ち着かない自分の鼓動にイライラした。
俺はアリッサのこと.......。
いや、まさか。
そんなはずはない。
小刻みに震えていた彼女の身体がやがて、落ち着いてきた。
疲れ切っていたのだろう。
「すぅ」
という彼女の寝息が聞こえてきた。
(くそ。
眠るつもりはないけど。
なんだか落ち着かない)
アリッサからは甘くていい香りが漂ってきていた。




