【アリッサ】幸せ
久しぶりに会えたレンは少しやつれていて……。
その瞳には悲しそうな影が浮かんでいた。
レンは王宮で大変な目にあったのだと聞いた。
彼は濡れ衣を着せられて投獄されたって。
それにレンが王宮で親しくしていた貴族がひとり亡くなってしまったという話も聞いた。
もう少し詳しい話を聞きたいけど……。
きっと話したくなったら自分から話してくれるわよね。
まだそっとしておこう。
それにしても……彼が無事に帰って来てくれて本当によかった。
レンが女王に捕らえられたと聞かされたときは、とてもショックだった。
彼に何かあったらと思うと怖くて怖くてたまらなかった。
目の前に彼がいて優しく微笑んでいる。
幸せだわ。
もう2度とレンと離れたくない。
………………………
乳をあげるとリックはすぐに、スヤスヤと眠った。
長いまつ毛がほおに影を使ってる。
小さな手であたしの指をぎゅっとつかんでいる。
あたしの可愛いリックは旅の途中もとても良い子だったわ。
……………………………………
「そっか。
緑の館にいたのか」
「ええ。とても良くしてもらったわ」
屋敷を離れていた間のことをレンに話した。
あたしは「緑の館」と呼ばれる宿に身を隠していたのだ。
そこはレンやニナの叔父に当たるひとが経営する宿屋だった。
「お魚が美味しかったの。
それに宿にはイヌや猫が沢山いたわ」
あたしがそう言うと、レンは目を細めて笑った。
「俺も小さいころ、行ったっきりなんだ。
また行きたいな」
「あら、あたしもレンと行きたいわ!
リックがもう少し大きくなったら」
リックの名前を出したとたん、レンの表情が急にサッと暗くなった。
(リックのこと、やっぱりレンは愛してないのよね。
だってリックは彼のどもじゃない。
それどころか宿敵の子どもなんだものね)
改めてそう考えて、あたしも暗い表情になってしまった。
……………………
その夜、寝室に二人きりになるとレンとあたしは抱きしめあったまま長い口づけを交わした。
そのままソファに一緒に座って、またキスをする。
彼の顔をうっとりとみつめると、レンはあたしの頬をそっとなでた。
そして
「疲れてるんじゃないか」
と心配そうな顔をして言う。
「ずっとあなたの帰りを待っていたのよ。
そうね。待ちくたびれたかもしれない」
あたしは、ふふふと笑うと彼の前髪を撫でた。
「俺も……この屋敷で君の帰りを待っていた。
ほんの数週間だけど。
いつ戻ってくるのか分からない相手を待つのって、つらいんだな。
すごく寂しかったよ」
「そうよ。あたしのつらさが分かったのね?」
「身に染みて分かった」
彼は、あたしのこめかみとまぶたにすばやくキスをした。
「レン、愛してるわ」
あたしは彼の首筋に腕をからめて抱きつき、身体をぴったりと密着させた。




