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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
王都にて_女王の狂気と大蛇の血
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【レン】イリーナさまとの会話


「ベルナルド領に帰ることを許可する。

生き血のことを、アリッサと話し合って欲しい」


女王は俺が城を離れることを許可した。


ようやくアリッサのもとへと戻ることができるのだ。


しかし、リチャードの件を話し合わなければいけないという重い課題を持たされてしまったわけだが。


女王は、現時点では俺に「頭を下げて」頼み込むという姿勢を見せているが……。


イリーナさまの容態が悪くなれば、態度が豹変し、無理やりリチャードを奪いにくる可能性もあるだろう。


どうすればいいのか。

いろいろと考えておかねばならない。


さっそく城を退出するために、荷物をまとめ始めた。

馬車の用意をするように使用人に声をかけ出発の準備を進める。


だが……心残りがひとつあった。

城を出る前に、イリーナさまに一目お会いしたかった。

彼女の様子をこの目で見ないまま、城を離れるのは気がかりだ。


イリーナさまの居室のドアの前に立つ。

ノックをしようと拳をドアに当てるが……。

勇気が出なくてなんども、その手を下ろした。


「レンさま」


俺がイリーナさまの居室の前でウロウロしていると、背後から声をかけられた。


振り返ると侍女を数人引き連れたイリーナさまが立っていた。


「お部屋にいらっしゃるかと」

慌てて、そう言うとイリーナさまは小さく微笑んだ。

「治療師のもとで火傷の経過を診てもらっていたのです。

レンさま、なにか御用ですか……」


か細い声だった。

イリーナさまは痩せ細り、やつれて見えた。

グレッグの死からまだ数日だ。

ショック状態から立ち直るのは、まだまだ先のことだろう。


「……ベルナルド領に帰ることになりまして。ご挨拶したく」

そう伝えるとイリーナさまは目を見開いた。

「お部屋のなかでお話ししましょう?」

そう言って、俺を部屋のなかへと招き入れた。


………………………


イリーナさまの部屋は、火傷の手当てに使われたのであろう薬草の匂いが充満していた。


ソファに向かいあって腰掛ける。


「ベルナルド領にお戻りになるんですね。

いつ発たれるのですか」

「……今日の午後にでも」

帰れると決まったからには、すぐにでも出発したかった。


「寂しくなりますわ」

イリーナさまは目を伏せて小さな声でそう言った。


俺を恨んだ男が、復讐のために引き起こした今回の事件。

イリーナさまとグレッグを巻き込んでしまった。

そのことを、なんと言って詫びるべきか。

何を言っても許されるはずがなくて……。

俺は言葉に詰まってしまった。


「イリーナさま……」

「レンさま」

二人同時に口を開く。


「先にどうぞ」

俺がイリーナさまにそう言うと彼女はしばらく黙り込んだのち、ゆっくりと口を開いた。


「グレッグのこと、自分がこんなに大切に思っていたなんて……。

あたしは、今まで全く気づかなかった。

考えもしなかったのです」


「イリーナさま……」


「愚かですよね。

いなくなってから、気づくなんて」

「そんなことは……」


「考えるのです。

レンさまが、あたしの前に現れなかったらと」


イリーナさまの言葉に思わず心が重くなる。

イリーナさまは俺が現れなければ、グレッグと幸せになれたのにと。

そう言いたいに違いないと思ったのだ。


イリーナさまが口を開いた。

「貴方が現れなければ、あたしはきっとグレッグと結婚していた。

そして子どもをもうけて、平和に暮らしていた」


「イリーナさま……。俺のせいです」

俺は俯いたまま、彼女と視線を合わせられなかった。


「あたしは、グレッグの妻になっていたでしょうけど……。

それでも、こんなに深く彼のことを愛している、大切に思っている自分に、きっと気づかずに一生を終えていたと思うのです」


「それは……」

どういう意味なのだろうと俺は思った。

イリーナさまは何をおっしゃりたいのだろう。


「レンさまが現れなければ平穏無事にグレッグの妻になっていた。

でもきっと、グレッグのことは、小さい頃から婚姻を決められていた許婚であると。

仕方なく結婚した相手なのだと思い続けていたのではないかと。

そんな気がするのです。

だから、グレッグをこんなに深く愛する気持ちに気づけたのは……

レンさま、貴方のおかげなのです」


「しかしイリーナさま。

グレッグが命を落としたのは俺のせいです」


「いいえ。そんなことはありません。

姉が貴方をこの城に引き留めたせい。

あたしが、あの男とダンスしたせい。

ほかにもいろいろな原因が重なったのです。

ご自分を責めないでください」

イリーナさまはそうきっぱりと言って俺の目をじっと見た。






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