【レン】焼け落ちる大広間からの脱出
「この野郎!!」
グレッグはそう叫ぶと、男の方へと矢のような速さでまっすぐに走った。
「グレッグ、体当たりだ!!」
そう叫びながら俺も、一歩遅れて男の方へと走る。
イリーナさまが炎の中へと突き飛ばされそうになったその瞬間......。
グレッグが、男に勢いよく体当りした。
男は衝撃にバランスを崩すして、よろける。
そして男は、業火の中へと倒れ込んだ!
「ぎゃああああ」
男の叫び声。
「きゃああああ」
イリーナさまも叫び声を上げた。
みると、男の手がイリーナさまの腕をつかんだままだったのだ。
イリーナさまは、男とともに炎の中に引っ張り込まれないよう、懸命に足を踏ん張ったが......。
彼女の片腕だけが炎の中に引っ張り込まれてしまう。
「いやあああ」
イリーナさまが痛みに泣き叫ぶ。
俺はグレッグに一歩遅れて、イリーナさまのもとへとたどり着いた。
イリーナさまの、もう一方の手を引っ張っる。
業火の中で焼かれる男と、炎の外にいる俺の両方に、イリーナさまの両手は引っ張られた状態になった。
やがて男はあまりの炎の熱さに、イリーナさまの腕をようやく離す。
イリーナさまは男から自由になり、床によろめいた。
俺は彼女の片腕についた炎を上着をつかって消し止めた。
イリーナさまは腕に火傷を負ってしまった。
だが命に別状はなさそうだった。
「ぎゃあああああ!!」
炎に焼かれていく男の叫び声が大広間に響く。
イリーナさまはあまりの恐ろしさに、震えている。
だが、自分の側に倒れ込むグレッグを見て我に返る。
「グレッグ!!グレッグ!!」
彼の身体を懸命にゆするが、グレッグは気を失ってしまっていた。
「とにかく、ここから逃げなくては!!」
俺は素早く視線を走らせ、逃げ道を探す。
炎は俺にとって馴染み深いもの。
火の勢いがあまり見られないルートを瞬時に見出す。
「青銅のアーマーが飾られている背後の壁が、火の勢いが少ない!!
アーマーの後ろにある窓から逃げよう」
みんなに指示を出した。
「グレッグ!!グレッグを置いていかないで!!」
イリーナさまが泣き叫ぶ。
「俺がグレッグを運ぶ!!
エレナは、女王とイリーナさまを頼んだ」
エレナは無言でうなずくと、素早く動いた。
「エ、エレナ!?エレナなのか」
女王はエレナの存在に、今さら気づいたのか......驚いた声を上げる。
「女王陛下!お話は後ほど。
今は逃げることに集中して!」
エレナは女王にそう言うと、彼女を守りながら歩き始めた。
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「はぁっ、はぁっ」
巨体のグレッグを背負い、俺はなんとか大広間の窓から外へと逃げ出した。
「や、屋敷が崩れ落ちる。
もっと離れた場所へ避難しよう」
グレッグのあまりの重さに、下半身が悲鳴を上げたがなんとか一歩踏み出す。
女王とエレナ、イリーナさま、それにグレッグを背負った俺は、屋敷から十分離れた森の中へと避難した。
みんな顔が煤けていて、服はボロボロ、ひどい状態だった。
グレッグを、草の上にそっと下ろす。
やつの腹の傷の具合を調べた。
(まずいな......だいぶ出血してる......)
「グレッグ、お願い目を覚まして」
イリーナさまが、グレッグの手を握り、懸命に声を掛けていた。




