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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
王都にて_女王の狂気と大蛇の血
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【レン】燃え盛る炎の中で



「い、いけません。陛下、すぐに逃げないと焼け死にます」

女王を必死に説得する兵士。

だが女王は暴れのたうち回り、兵士たちの拘束から逃れようとする。


燃え盛る炎。

天井から見下ろすケルビムの絵画の一部が崩れ落ち、炎がタペストリーや毛織物に燃え移っていく。


オレンジ色の炎から、ぱちぱちと音を立てて舞い上がる火の粉。


俺は......不謹慎にも炎を見て恍惚とした何とも言えない高揚感に陥っていた。


(......炎の奥に宿るフェニックス神の化身が見える)

火の魔法使いだった頃の記憶が蘇り、思わず炎に見とれてしまったのだ。


普通の人間なら「業火」を見れば恐れるものだが、俺にとって炎は神聖で......守り神のような存在だった。


「イリーナ!!!」

突然、大量の血を流しながら歩いていたグレッグが急に叫びだした。

グレッグは目を大きく見開いて、棺の方をじっと見つめている。


つぎに王宮兵士が叫び声を上げ棺を指差した。

「なんと!!あれを見ろ!!!」


皆は何事かと棺の方へ、一斉に視線を向けた。


「......な、なんということだ......」


激しい炎に包まれた棺の中から、イリーナさまが上半身を起こし、キョトンとした表情でこちらを見ていたのだ。


「し、死者がよみがえった」

「悪しき呪いだ!!!」

「恐ろしい!」


鍛え上げられた一流の王宮兵士たちは、あるものは腰を抜かし......。

あるものは、小便をもらし、また別のものは脱兎のごとく大広間から逃げ去った。


死者のよみがえり......さらには迫りくる業火に恐れをなし......。

王宮兵士は、女王を放ったまま、ほとんどが逃げ去って行った。


俺を押さえつけていた兵士たちも、自分可愛さに逃げ出した。

俺は、兵士たちの拘束がなくなり身体を動かせるようになった。


大広間に残ったのは、棺の中から起き上がったイリーナさまと、俺。

それに血まみれのグレッグ。

放心状態の女王とそのすぐ隣に、エレナがいるのみとなった。


「グレッグ!!」

イリーナさまは炎のむこうからグレッグの方へと手を伸ばし、グレッグの名を呼んでいる。


だがグレッグのいる場所よりも俺のほうがイリーナさまの棺に近い。

しかもグレッグは大量出血し、ふらついている状態だった。


「ウォーカー!!イリーナを助けてくれ」

さっきまで俺を犯人呼ばわりしていた女王は、他に頼るものがいないからか、俺にそんな叫び声をあびせる。


「分かってる!」


「イリーナが焼け死んでしまう......た、助けないと」

グレッグも悲痛な声で叫ぶと血を流しながら、棺の方へと走り出した。

「グレッグ!俺に任せろ、俺は炎には慣れている」

グレッグにそう叫び、棺に向かってダッシュする。


(イリーナさまが生き返ったのには、驚いたが......。

とにかく、彼女を炎から助け出さないと!!)


棺の周囲には、取り囲むように業火が燃え盛り、人の近づける状態ではなかった。


俺は棺を取り囲む炎に飛び込んだ。

焼け死んでも構わない。

そう思った。


一瞬、髪の毛や肉が焼ける嫌な匂いがする。

息を吸い込むと、喉や肺が焼けるように熱い。

目も鼻も、地獄のような熱を感じる。


そのとき......。

俺の耳元に、聞き覚えのある声がした。

我が神......フェニックスの声だった。


(お前は......守られている......炎はお前の味方だ......安心するが良い)


この声......。

大蛇との戦いのときに聞こえた声だ。


大蛇の魔力によって俺の体は芯まで燃やされた。

だが業火に焼かれ悶え苦しむ俺の耳元で、この声が聞こえたのだ。


「お前はまだ死ねない。

やることがあるのだから」


忘れもしない。

声はそう言っていた。


(俺は......俺の身体は炎に焼かれることはないのか?)

そう考えた瞬間......体に感じる熱がスッと消え、痛みや熱さが消えた。


俺は、急いで棺にうずくまるイリーナさまを抱き上げた。

彼女を燃え盛る炎から守るように自分の体でかばった。


そして、棺を囲む炎の外へと連れ出した。


「あぁ、イリーナ!!よかった」

グレッグの叫び声。

グレッグの背後には、エレナに守られた女王が床に座り込んでいる。


ふと、どこからともなく現れた白髪の使用人がこちらに走ってきた。

「あの窓から逃げましょう!まだ火の手が浅い」

彼はそう叫んだ。


「わたしがイリーナさまをお連れするので、あなたはトッド卿に肩を貸して」

使用人にそう言われ、俺はイリーナさまの元を離れ、グレッグの方へと救出に向かった。


グレッグに肩をかそうと、手を差し出した......そのとき!


「ダメだ!!そ、そいつは......イリーナと僕を殺そうとした犯人だ!!」

グレッグが唐突に、そう叫んだ。


「な、なにっ!?」

俺はあわててイリーナさまの方へと振り返る。


だが遅かった。


白髪で頬に火傷の跡がある使用人は、イリーナさまを羽交い締めにしていた。


「くそ!どこまで悪運の強い男だ......レン・ウォーカー!!」

そう言いながら、俺を睨みつける。


「こうなったら、俺以外、全員ここで焼け死ねばいい。

そうすれば証拠はなにも残らない!!!ハハハ!!」

そう叫ぶと、手に持った小瓶をあちこちに投げつける。


投げつけられた小瓶は大広間のあちこちで割れ、炎がさらに燃え広がった。

男はイリーナさまに小瓶にはいった液体を頭から被せる。


そして暴れる彼女を、炎の方へと突き飛ばそうとした!!


(ヤツを倒して、イリーナさまを助けなければ)


だが、驚いたことに俺よりも、手負いのグレッグのほうが動きが早かった。


「......この野郎!!」

グレッグはそう叫ぶと、傷を負った身体とは思えないほどの俊敏さで男の方へと走った。


俺は思わず

「グレッグ!!体当たりだ!!」

と彼に向かって叫んだ。


王宮で、俺とグレッグは何度も、格闘訓練用の人形相手に体当たりの訓練してきた。

体当たり攻撃は、グレッグの十八番だった。


だが、いま......グレッグは瀕死の状態だ。


訓練どおりの力が出せるのか......。


俺が今からダッシュしても間に合わない。

グレッグが失敗すれば、イリーナさまは一瞬にして燃え盛る炎に身体を焼かれてしまうだろう。



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