【レン】燃え広がる炎
【レン】
王宮の紋章を付けた兵士たちが牢獄にやってきた。
そいつらに明るい日差しのもとへと引きずり出される。
そして大広間に連行された。
大広間では棺の前に立ち尽くす女王の後ろ姿があった。
俺が連行されると、ゆっくりとこちらに振り返る。
その顔は驚くほど無表情だった。
だがその無表情さが、余計に彼女の恐ろしさを際立たせていた。
「お前を信頼していた」
女王はぽつりと言った。
「わたくしの宝......命をお前は奪ったのだ。
すぐに殺してもらえると思うなよ?
身体を少しずつ切り刻み、痛みをゆっくりと味あわせてやる......。
早く殺せと泣きわめくことになるだろう」
彼女は俺を指差すと言った。
「私の宝を奪ったのだ。
もちろん、お前の大事なものも奪ってやろう」
ビクッと肩を震わせて女王の顔を見上げる。
俺の顔に焦りが浮かんだのをみて、女王は冷たく嘲るように唇を歪めて笑った。
「......そうだ。ベルナルド領にいるお前の妻と子ども。
それに親兄弟。根絶やしにしてやる。
火の魔法使いとて恐れるものか。
女王軍の全力をだして追い詰める」
俺は、数十人の兵士に押さえつけられ女王陛下の前にひざまずかされていた。
「女王陛下。
これは濡れ衣です」
俺は彼女の目を見て訴えかけた。
女王は冷たい目で俺を見下ろしていた。
「イリーナと......我が妹との婚姻をお前はずっと拒否していた。
だからといって、まさかこんなことをするとは」
「しません。するわけがない。
イリーナさまを殺したのは別の人間です。
考えてください。
彼女を傷つけ、その証拠である剣を持ち去らないなんて、俺がそんなマヌケなことしますか?」
女王の目が少し見開かれた。
だが
「下手な言い逃れをするでない」
と言い俺の言い分は聞き入れてくれない。
(まずい。せめてアリッサや子どもは守らなくては......。
おまけに女王は親兄弟......つまり俺の親父やニナのことまで迫害すると言っている。
ディルたちは、ベルナルドへ向かってくれたのだろうか......)
頭の中をとめどない考えがぐるぐると巡った。
ふと、使用人たちの中から鋭い視線を感じた。
そちらに目をやると、ニナの護衛のエレナと目が合った。
(エレナだ!彼女はベルナルド領へ向かってくれたんじゃなかったのか?)
問いかけるような眼差しを向けたが、エレナの表情からは何も読み取れない。
そのときだった。
人の叫び声や足音が大広間の出入り口の方から聞こえた。
「なんだ?」
兵士たちがどよめきたつ。
ファインズ家の兵士の叫び声がした。
「大変です。すぐに避難を!!
屋敷の食堂から火の手が上がっております」
「なんだと?なぜ、こんなときに火事が!?」
女王が上ずった声で叫ぶ。
「おそらく厨房の火の不始末でしょう!!
ものすごい勢いで火が広がっています。
逃げましょう」
ザッ!!
女王軍の兵士たちは女王を守るように取り囲んだ。
彼らはなによりも女王の命を最優先で守るように叩き込まれている。
たとえ......女王自身がそれをのぞまなくとも......。
「ダメだ!!イリーナを置いては行けぬ!!
イリーナを!!」
ところがイリーナさまの棺の周りにとつぜん炎が燃え上がりはじめた。
「なぜだ?ここは厨房から遠いはず......」
「分かりません!とにかく逃げないと」
きゃあああ!
という使用人の叫び声。
怒号。
大広間はあっという間に混乱の渦に巻き込まれた。
「イリーナ!!イリーナを連れて行くのだ」
「無理です。陛下!!」
「陛下をお守りしろ」
兵士たちは、女王陛下を担ぎ上げると移動しようとした。
「行かぬぞ!わたくしは行かぬ!!」
女王はジタバタと暴れ抵抗した。
「イリーナ!!」
大広間の入口から、男の叫び声が聞こえた。
「イリーナ!!イリーナは死んでしまったのか!?」
大広間の入口から棺の方へとヨロヨロと歩く男。
それは........グレッグだった。
驚いた。
グレッグは瀕死の状態だったんじゃないのか?
「グレッグ!?お前、回復したのか!?
大丈夫なのか!?」
兵士に押さえつけられたまま、俺はグレッグに向かって叫んだ。
「腹が死にそうなほど痛い。
だけど......まだ生きてるよ」
グレッグは棺をじっと見たまま、そう答えた。
彼の腹からは、血が流れ出ていた。
動いたことでかなりの出血が起きているのだろう。
あれでは、命がもたないだろう......そう思われる量だ。
「わたくしはここに残る!!
無理やり連れて行こうとしたものは、首を跳ねる!!」
女王のあまりの勢いに、兵士がたじろいだ。




