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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
王都にて_女王の狂気と大蛇の血
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【アリッサ】手紙を何度も送った【エレナ】女王との過去


【アリッサ】


「王宮から離婚の書類が届いたのよ。

......これは、何かの間違いよね?

どういうことなの?

レンは、どうしているの?元気なの?」


あたしは、王宮にいるレンに何度も手紙を書いた。


でも、一度も彼から返事が来ない......。


最初に受け取った

「女王との謁見が叶わず、滞在が長引いている」

という手紙をもらって以来......彼からは音沙汰がなかった。

(レン......会いたい)


離婚要求の書類に、すぐにサインして送り返さなければいけないのに。

あたしは、それを先延ばしにし続けていた。

書類は女王直筆のサインがなされ、正式な命令書の様相を呈していた。


......女王の命令に逆らえばベルナルド家など、いとも簡単に潰される。

それは、よく分かっていた。


......でも......!!


レンがよく身に着けていた寝間着を引っ張り出すと抱きしめた。


(離婚なんて絶対にしたくないわ。

お願い......早く帰ってきて)


「んぎゃああ」

リックの鳴き声でびっくりして振り向く。

ベッドの上でスヤスヤと眠っていたのだが、急に目を覚ましたようだ。


「お目々が覚めたのね、リック」

急いでベッドから抱き上げる。


「ううぅ......おぎゃあ~」

リックは普段、こんなに激しく泣き叫ばないのに。

いつもよりも大きな声でしつこく泣き、涙をボロボロと流した。


「どうしたの?大丈夫よ。

お母さんはここにいるわ」

リックは涙で濡れた灰色の目で、あたしの顔をじっと覗き込んできた。

まるで、恐ろしい夢を見た......とでも言っているかのようだった。


-------------------------------------


【エレナ】


(あの男......フレッチャーが犯人で間違いないだろう。

部屋から飛び出してきたレン・ウォーカーを見た......という証言はヤツの作り出した嘘。

ウォーカー殿の剣を仕込んだのもヤツの仕業だろう。

なぜそんなことをしたのか、それは不明だが......)


イリーナさまは大広間に移動させられるようだった。

こんな地下の簡素な安息の間に、女王を案内するのはマズイとの判断だろう。

兵士が棺を動かそうとしている。


私はイリーナさまを見張り続けることに決めた。

(イリーナさまはそのうち、目を覚ますだろう。

それまで彼女の身の安全を守り続ければ良い......。

そうすれば、一件落着だ)


ところが、フレッチャーはまだ諦めていなかった。

ヤツの恐ろしい企みはまだ、続いていたのだ。


------------------------------


夜明けと同時に王女がファインズ家に到着。

大広間の天井まである大きな窓からは、薄っすらと朝日が差し込んでいた。


朝日に照らされる棺の中のイリーナさまをみて、女王陛下は泣き崩れた。


「あぁあああ」


女王の悲痛な叫び。

「イリーナ!!嘘だ。そんな。

......まるで、まだ生きているようではないか」


私はそんな陛下を大勢の使用人たちの中に紛れて、こっそりと見つめていた。


(女王陛下......スザンナさま......)


5年前......スザンナさまと過ごした日々が私の脳裏によみがえった。


女王陛下の近衛兵として、私は彼女のお側にいた。

一番近くにいた。

誰よりも彼女のことを知っていた。


彼女と二人で、城の庭園を散歩したこと。

庭園の池のアヒルを、二人で笑いながら追いかけ回したこと。

こっそりとお忍びで街に出かけ、ガラス玉でできた指輪をお揃いで購入したこと。


女王陛下は私が好きだと言った。

好きだと......。

いいえ、愛してると、言ってくれた。


私は彼女を騙し続けることが出来ずに

「女王陛下。私は男ではありません......女なのです。

本当の名前はエレナといいます」

そう打ち明けたのだ。


だが彼女は表情を変えなかった。

「ははは。そんなの分かっておった。

いつ言ってくれるのかと、待ちわびておったぞ」


私と陛下は深く......口づけをした。

彼女のことを愛していた。


でも。

女王が女と結婚するなど......許されるはずもない。

おまけに身分も違いすぎた。


叶わぬ恋だということは、お互い分かっていたのだ。


(陛下は、妹君を心から慈しんでいた。

どんなにショックを受けているだろう)


泣き崩れ、嗚咽を漏らす女王をみて私は彼女の肩に手をかけたい。

そして、「イリーナさまは生きている」と伝えたい。


そんな気持ちに駆られた。


だが万が一、私の「読み」が外れていたら?

イリーナさまが本当に黄泉の国に旅立たれていて......二度と目を覚まさなかったら?


そうなったら、女王陛下を二重に傷つけることになる。

淡い期待をもたせ、ふたたび絶望の淵へ彼女を追いやることになるのだ。


(やはりイリーナさまが、目覚めるのを待ったほうがいい)

私はそう思い直した。


ふいに女王が大声を出した。


「ウォーカー......。レン・ウォーカーをここに連れてくるんだ!!

ヤツの顔がみたい」


女王軍の近衛隊、隊長が困った顔をする。

「しかし......ウォーカーをここにつれてくるのは危険では......」

「わたくしの言うことが聞けぬのか!?」

女王は隊長に向かって怒鳴り返した。


「わ、わかりました。お待ちを」


隊長はファインズ家の兵士に声を掛ける。

やがて、後ろ手に手を縛られたレン・ウォーカーが、大広間に引きずられてやってきた。









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