【グレッグ】イリーナを目で追う【レン】突然の拘束
【グレッグ】
......一体、どうしたんだろう。
いつもニコニコ笑って、優しいイリーナが怒って僕から離れていってしまった。
僕はイリーナのことが心配だった。
だって女王の妹であるイリーナが見知らぬ男と踊るなんて、してはいけないことだった。
このファインズ家のパーティにはイリーナと何度か出席したことがあるんだけど......。
いつもイリーナは僕とだけ踊っていた。
見知らぬ男に身を任せるなんて、女王の妹として逸脱した行為だった。
「あの......踊っていただけますか?」
仮面を付けた女性が、僕に声を掛けてきた。
だけど僕は
「......すみません、今は踊れないのです」
と言って、断った。
(ダンスなんかしている場合じゃない。
イリーナが心配だ。彼女のことを見張っていよう)
踊っているイリーナと男の姿を見失わないように目で追う。
イリーナは、あの紫色の仮面をした白髪の男と踊っている。
たとえ見失ってもイリーナのことを見分ける自信はあった。
仮面を付けていても、みんなと同じ服を着ていても。
大好きなイリーナを見間違えるはずがない。
(あれ......。なんかおかしいぞ)
イリーナと男がダンスをやめて歩き始めるのが見えた。
遠すぎて、よく見えないけど......。
大広間から出ていこうとしてる......一体、どこへ行くんだ?
(イリーナの護衛たちは、見ていないのか?
なにをやってるんだろう?)
みんなのんびりと、広間に並べられている果物を食べ酒を飲んでいる。
(と、とにかく彼女の後を追わなくちゃ......)
僕はイリーナのあとを追い大広間から外へ出た。
男とイリーナが廊下の端にある部屋に入っていくのが見えた。
(おかしい!どうしてあんな部屋に行くんだ?)
僕は廊下を走って、男とイリーナが入っていった部屋に飛び込んだ。
そこで見たものに驚く。
イリーナは男に剣を向けられていたのだ!!
「やめろっ!!」
僕は叫んだ。
そして男に飛びかかる。
だが男はすばやく振り向くと、剣をふるい僕の腹をザクリと斬りつけた。
血が吹き出る。
目の前が暗くなる。
足の力が抜け、僕は床に倒れた。
「グレッグ!!いやっ!!グレッグ!!」
イリーナの叫び声。
「くそっ、大声を出すな。人が来る!!」
「いやよ!!グレッグ、あぁ、グレッグ!!」
「大声を出すなと言っているだろう!!」
叫ぶイリーナを黙らせようと焦った男は彼女の首を、指につけた小さな武器で刺した。
「くそっ、大声をだしやがるから......人が来てしまう!」
男の声が聞こえる。
イリーナが床に倒れる。
床に倒れたイリーナの目と僕の目が合った。
彼女の目は涙に濡れていた。
「イ......リーナ」
僕は必死にイリーナを呼び、彼女の方に手を伸ばそうとした。
「なんだ?!叫び声が聞こえたぞ?」
廊下のほうでバタバタと人が駆けつける足音がする。
イリーナを傷つけた男が、急に叫びだした。
「大変だ!!人が殺されてるぞ!!」
僕は完全に意識を失い、暗闇に落ちていった。
【レン】
和やかな曲に合わせて踊っていると、突然......大広間に兵士がなだれ込んできた。
兵士たちはファインズ家の制服を着ている。
(なんだ?なにかあったのか?)
楽隊が音楽を止め、それまで踊っていた招待客たちはピタリと動きを止めた。
ザワザワと不安な声がホール全体に広まっていく。
「レン・ウォーカーはどこだ!?」
隊長らしき兵士の一人がそう叫んだ。
俺は
「ここにいる!どうしたんだ?
なにかあったのか?」
と、驚いて叫び返した。
仮面を取り、自分がここにいることを手を上げて合図する。
すると、ものすごい勢いで兵士たちがこちらに向かってきた。
そして俺は大勢の兵士に取り押さえられ、床に引き倒される。
「なにしやがる」
俺は兵士をにらみ付けた。
だが隊長が口にした言葉に、俺は凍りついた。
「イリーナ・アリステリアさま殺害でレン・ウォーカー、お前を拘束する!」
「な、なんだって......!?」
「お、お兄ちゃん」
ニナの叫び声が聞こえる。
「なにかの間違いです。お兄ちゃんは、そんなことしない!」
「ニナ!」
ディルが慌てて、ニナの身体を押さえている。
どういうことだ。
イリーナさまは死んでしまったのか!?
そんな......馬鹿な。
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「これはお前の剣だろう?」
大勢の貴族たちの前で取り押さえられ、引きずられるように連行された。
俺はファインズ家の地下牢に閉じ込められた。
冷たい石畳の小部屋には、小さな机が置かれている。
その机をはさんで、俺は隊長に向かい合うように座らされた。
周囲には6人の兵士が、取り囲んでこちらを睨んでいる。
「そうだ。剣の柄にベルナルド家の紋章が描かれている。
俺のもので間違いない」
剣の先には血がベッタリとついていた。
(まさか......あの血は、イリーナさまの血なのか......)
俺はゾッとした。
油断していた。
イリーナさまから、離れるべきではなかったのだ。
だがイリーナさまは、グレッグと踊っていたはず。
「イリーナさまは、グレゴリー・トッド卿と踊っていたはず。
彼は......グレッグはどこに!?」
俺は椅子から立ち上がって、机を叩いた。
すると、脇で見ていた兵士が飛んできて、俺の頬を殴ろうとした。
俺は、避けて逆にそいつを殴リ返す。
周囲の兵士がワッと飛びかかってきて取り押さえられた。
「とぼけるな。
お前はこの剣で、グレゴリー・トッド卿のことも刺したのだ。
この剣についている血は、トッド卿のものだ」
「な、なんだって!?
グレッグはどうなったんだ?
イリーナさまは、どうして亡くなったんだ?」
俺はまた椅子から立ち上がろうとしたが、兵士に取り押さえられた。
 




