【レン】アリッサと踊る【イリーナ】毒針で脅される
【レン】
イリーナさまは俺と踊っている最中、ずっとよそ見をしていた。
どこを見ているのだろうと思ったら......。
彼女はグレッグのことを、目で追っていたということが、分かった。
グレッグのことが好きなんだろうな。
それなのに、俺と結婚するように女王に命令されている。
可哀想に。
このままじゃいけない。
なんとかして、女王を説得しなければ。
俺には交渉の「切り札」みたいなカードはないけど......。
地道に女王に気持ちを伝え続ければ、分かってくれるはず。
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曲が変わるたびに、ダンスの相手も次々と変わっていった。
もうグレッグもイリーナさまも、どこにいるのか皆目検討もつかない。
仮面を付けた見知らぬ女性が、俺の肩に手をおいている。
くちびるの形がアリッサに似ている気がする......。
その女性の顔をアリッサの顔に置き換えている自分に気づく。
アリッサと踊っているような気分になった。
「レン......愛してるわ」
そう囁く彼女の声が聞こえるような気がした。
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【イリーナ】
「お嬢さま、一曲踊っていただけませんか」
「えぇ、喜んで」
グレッグには引き止められたけど、あたしは見知らぬ男性と踊ることにした。
グレッグに、焼きもちを焼いて欲しい......そんな気持ちになっていた。
見知らぬ年配の男性は、踊りながら......あたしの耳元で小声でたずねた。
「あなたは.....イリーナ・アリステリアさまですよね?」
「えっ......よくお分かりになりましたね」
「ずっと、目で追っていたんです......見失わないように」
男が低い声で言う。
「レン・ウォーカー殿と婚約なさったというのは本当ですか」
「......まだ決定はしておりませんわ」
あたしは、男のことが少し怖くなってきた。
なぜ、あたしの姿を目で追っていたのだろう。
男の顔をじっと見る。
仮面で顔が半分隠れているけれど......。
頬の傷跡の一部が仮面からはみ出て見えた。
(この男......。さっき廊下でレンさまに恨みがあるって言っていた......)
「大人しくしてくださいね。
私の言うことを聞いて。大声を出したら、これで刺します」
男がそう言うので、ゾッとして、男の手元を見る。
男の人差し指には、鋭い針のついた指輪がついていた。
その針の先が、あたしの首筋に素早く当てられる。
「......や、やめて」
小声で懇願するが、男はだまってあたしの腕を引っ張る。
「この指輪の針先には毒が塗り込まれています。
おかしなことをすれば、すぐに刺しますよ」
男に歩かされる。
指輪の針をあたしの首の裏側に当てているのが感じられた。
「......あ、あたしは王妹です。
こんなことしたら、姉に報復されます......」
そう脅したがムダだった。
男はあたしの背中をグイグイと押して、歩かせ続けた。
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あたしは、男に背中を押されて大広間から外へ出た。
人気のない廊下を歩かされる。
「何が狙いなの?あたしを誘拐して、身代金を要求するつもり?」
震える声であたしは聞いた。
大勢の兵士を連れてきたのに......誰もあたしがいなくなったのに気づいていないみたいだわ。
無理もない.......仮面を付けてみんな白いドレスを着ているのだもの。
あたしがいなくなったって、誰も気付けない。
男は、あたしを脅しながら廊下の端にある小さな部屋に入った。
物置部屋のようで、絵画やオブジェが床に乱雑に置かれている。
男は、埃の被った絵画の裏から、剣をひとつ取り出した。
「な、なにするつもりなの」
胸がドクン、ドクンと鳴り響く。
「お前は、レン・ウォーカーに殺されることになる」
男の言葉にあたしは耳を疑った。
「な、何を言ってるの?レンさまは私を殺したりなんかするわけ......」
「しぃっ!大声を出したら、すぐに殺すからな」
男は、あたしの首に剣をピタリと当てた。
「ファインズ家の屋敷にはいるときに、武器はすべて、屋敷の倉庫に預けることになる。
......舞踏会に武器など必要ないからな」
男が低い声で続ける。
「俺は、武器が入っている倉庫から、レン・ウォーカーの剣をあらかじめ盗み、ここに隠しておいたのだ。
......これで、お前を刺し殺せば、殺した犯人はレン・ウォーカーだということになる。
ウワサによると、やつはお前との結婚を望んでいないそうだな?
立派な殺人の動機になるんじゃないか」
「いやよ......そんな......殺さないで!」
あたしは足の力が抜け、床に座り込んだ。
「王妹を殺したとなれば、拷問のうえ打首になるのは間違いない。
ハハハ......レン・ウォーカーへの最高の復讐だ!!」
男はそう言うと、剣をにぎりしめた。




