レン
「そうだ。
大蛇の血を飲ませれば、アリッサは助かるかも」
50年ほど前に、仲間の魔法使いが話していた言葉をふと思い出した。
「緑の洞窟に住む大蛇の生き血は、寿命を伸ばすことが出来る」
ヤツはそんなことを言っていた。
(たしか大蛇について書かれた書物があったはず)
いそいで書庫を漁った。
「これだ!この本......」
分厚い本を手に取ると、ほこりを払う。
「大蛇の生き血を飲むことで寿命を永らえさせる」という記述を見つける。
「間違いない」
さらに書物を読み進めると、「大事なものを引き換えにする必要がある」という記述が目に入った。
(俺にとって一番大事なものはアリッサだ。
彼女さえ助かればなにもいらない)
奴隷の妖精にアリッサの世話を頼むと、俺は大蛇の住む洞窟へと旅立った。
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「アリッサ!!アリッサは無事か!?」
数日後。
自分の屋敷のドアを乱暴に開くと、妖精に声をかけた。
「無事でございます。
熱は下がっておりませんが」
「そうか......。よ、よかった」
その場に思わず座り込む。
大蛇の生き血を手に入れることができた。
でもすでにアリッサの命のともし火が消えていたら......?
馬を走らせながら、悪い考えばかり浮かんで気が変になりそうだった。
一刻も早く、大蛇の生き血をアリッサに飲ませたい。
すぐに彼女の部屋へと走る。
「アリッサ!アリッサ」
アリッサがうっすら目を開く。
「レン......。どこに行ってたの。
すごく......寂しかったよ」
小さな手を俺の方に伸ばす。
「あぁ......。俺も寂しかった」
アリッサの手にキスをする。
「がんばって、すこしだけ起き上がって」
彼女の背中をささえると上半身をベッドから起こした。
「さぁ、これを飲むんだ。
お熱が下がるお薬だよ」
革袋から、蛇の生き血を一滴もこぼさないように注意して、グラスに注ぐ。
「がんばって飲み干すんだ。
そうすれば必ずよくなる」
「......うん......」
アリッサは、傾けたグラスにくちびるをつけると、目をつぶって飲み込んだ。
「レン。変な味がする」
「頑張るんだ。飲めば、また魚釣りや、きれいな花を探しに出かけられるよ?
本もたくさん読んであげるし、貴重な宝石もみつけてあげる」
「ほ......ほんとに」
アリッサは真っ赤な顔をして、潤んだ瞳を俺に向けた。
アリッサは、ゴクゴクと蛇の生き血を飲み干した。
「ん......」
「さぁ、水も飲んで」
冷たい水を彼女に手渡す。
「うっ、うう」
アリッサがとつぜん、苦しそうにうめき出した。
「アリッサ!?」
俺は彼女の手を握る。
彼女の手は、驚くほど冷たくなっていた。
「だめだ、アリッサ、逝くな」
俺は彼女の額をなで、身体をだきしめる。
(間に合わなかったのか!?)
涙がうかび、頬を流れ落ちる。
なにもいらない。
アリッサがいればそれでいいのに。
「アリッサ。
逝かないで」