【レン】言いたいことを言う
【レン】
「やけに手厚く介抱してくれるんだな」
牢獄から解放された翌日......。
目が覚めるとすぐに治療師がやって来て傷を丁寧に消毒してくれた。
(こんなふうに治療するくらいなら、初めから拷問しないでもらいたかった)
などと考えていると、今度は使用人たちが大勢、部屋になだれこんできた。
「な、なんなんだ」
俺はベッドから慌てて起き上がり、5、6人はいるであろう使用人たちの顔を見回す。
「お風呂に入り着替えていただきます」
「はぁ?何を言ってるんだ」
驚いて首をかしげる。
「風呂ぐらい自分で入れる!」
腕をつかんで立たせようとする使用人の手を振り払った。
使用人の一人、リーダー格の男が言った。
「大人しくなさってください。
女王陛下直々のご命令です。
......逆らえば......」
「あぁ~、逆らえば命は無いってやつだな?
そういうのは、聞き飽きたな」
......また女王お得意の脅しか。
面倒くさくなって頭をボリボリとかきながら不機嫌に答える。
「あなたの故郷に災厄が及ぶでしょう」
「人の弱みにつけこむなんて卑劣きわまりない」
「シッ!不敬罪になりますぞ!」
「くそっ」
俺が口汚く罵ると、使用人たちは顔を合わせて目を丸くしている。
こんなに粗野な男が貴族の一員だということが信じられないのだろう。
俺は、別に貴族出身ではないし、マナーもへったくれもないからな。
「痛いじゃないか。傷が広がる!」
服を脱がされ馬のようにゴシゴシと洗われた。
そして風呂から引きずり出されると、元いた部屋に戻される。
「なんだ?これは」
......ベッドの上に、たくさんの服が並べられていた。
大きな鏡が運び込まれ、その鏡の前に見知らぬ男が腕組みして立っている。
「お前は誰だ?」
俺は男に向かってたずねた。
「あら~っ、このお方ね?」
男は俺の質問に答えずに、ナヨナヨとした動作で俺の全身を舐め回すように眺めた。
「傷だらけで筋肉質な身体......あなた、兵士なの?
貴族の男だと聞かされていたけれど」
男は俺の身体をジロジロと眺めながら言う。
「どうでもいいだろう。お前は誰だと聞いている」
「男前だわ。身体の均整が取れている。
何を着ても似合いそう」
腕組みをしながら首を傾げてじっとこちらを見ている。
「いい加減にしろ」
素っ裸で立たされ、眺め回されていい気分がしなかった。
俺はベッドの上に並べられたシャツのひとつを適当につかんで、身につけようとする。
すると男が
「だめよ!!アタシがあなたの服を選ぶのだから」
と言う。
「何を着ても同じだ!」
俺は男に向かって怒鳴ったが、ムダだった。
使用人のリーダー格にふたたび「故郷に災厄が及ぶ」と脅されたのだ。
「どうしてこんなことするんだ。
意味がわからない」
そう尋ねたが、誰も俺の疑問に答えてくれなかった。
女のような口調の男に、身体の寸法を測られた。
そして
「あら~、これもいいわね」
「これも捨てがたい」
などと言われながら、服をあてがわれる。
「貴方の寸法は記録したわ~。
次はきちんと仕立てた服を持参しますから。
今回は、こちらの既製品で我慢してくださいな」
男はそういうとニッコリと笑った。
「なんでもいいから早くしろ。
それと、ベタベタさわるな」
俺は男をにらみつけた。
結局、1時間以上も着替えに時間を掛け、髪の毛まで整えられる。
(これじゃ、まるで女の身支度だな)
髪をセットされ、異様に窮屈な服を着せられた俺は、大広間へと連れて行かれた。
「何が始まるんだ?いけにえの儀式か?」
聞いても誰も答えてくれないので、やがて質問するのはあきらめた。
大広間に入ると唖然とした。
長いテーブルに数々の豪華な料理が並べられている。
テーブルの奥......上座には女王が。
その右隣にはイリーナさまが座っていた。
(なるほど......俺は女王の昼餉に招待されたというわけか......,
でも一体どうして)
ベルナルド家のような下級の貴族の当主が女王と同じ席で食事を摂るなど聞いたことがない。
しかも俺は、女王に忌み嫌われているはずだった。
(これはなにか、あるな......)
「見違えたな。ウォーカー」
女王が俺の姿を見て笑う。
イリーナさまも俺をチラッとみると目を伏せた。
「一体、どういうことですか。
昨日は拷問......今日は食事に招待とは」
椅子に座りながら女王にたずねる。
「ウォーカー。
お前はイリーナの婿になると決まった」
(またその話か。
昨日の謁見の際にも、そんなことを言っていたが......。
なにかのワナかもしれないな)
「なぜです。
俺はご承知の通り短気で粗暴な性格です。
しかも結婚してる。
愛してるのは妻のアリッサだけです。
俺はアリステリア家にとって、何のメリットもない男。
メリットどころかデメリットにしかならないことを保証します」
腹が減っていたので、パンをむしゃむしゃ食べながら......俺は女王に言った。
なんとか、考えを変えてほしかった。
女王は正直言って、頭がオカシイとしか思えない。
最初の謁見のときは、「リチャードが欲しい」と言い出し......。
二度目の謁見では「イリーナの婿になれ」ときた。
女王は言ってることが、まともではない。
俺をこの屋敷にとどめたって、何の利益も生まないのだということを説得しなければ......。
そう思っていた。




