【イリーナ】姉の告白
【イリーナ】
身体から血を流し、気を失ったレンさま。
杭に手足を縛り付けられたままの状態で、だらりと首だけがうなだれている。
「どうしよう。レンさまが死んじゃうわ」
あたしは恐ろしくてグレッグにしがみついた。
グレッグは
「女王陛下のところへ行こう。
そしてレンをここから出してもらうんだ」
と蒼白な顔をして言った。
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グレッグと二人で、姉の部屋へ行った。
だが姉は、教会の宗教行事に出ていて不在だという。
「いつ戻ってくるの?」
執事に尋ねると
「早くて夜になるでしょう」
と言う。
「レンのやつ......夜まであの状態だなんて。
せめて壁から下ろすように兵士に頼んでみよう」
グレッグがそう言うので、あたしはうなずいた。
二人で兵舎へ向かう。
ところが兵士は
「女王さまのご命令でない限り、なにもできません」
と言う。
あたしとグレッグは途方に暮れた。
と同時に、自分たちの力の無さを痛感した。
(兵士は、あたしやグレッグの頼みは一切聞いてくれない。
なんて無力なんだろう。
今まで考えもしなかったけど。
......あたしは、女王の妹なのに、この城で何の権限も持っていないのだわ)
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グレッグは自分の屋敷に戻らないといけないので夕方頃、馬車で帰って行った。
夕餉の席でようやく姉と対面できた。
あたしは、食事には手を付けずに、さっそく姉に申し出る。
「お姉さま!!
レンさまを牢からすぐに出してください!!」
姉はあたしの言葉を聞いても、無表情でスープをすくった。
「レン・ウォーカーは、わたくしに対し、またしても反抗的な態度を取ったのだ。
罰を与えるになんの疑問もない」
と静かに言った。
「お願いです。
彼は鞭打たれ、壁に繋がれているんです。
夜は凍えるような寒さになります。
せめて壁からおろして欲しい......死んでしまいます!」
「あやつは、それくらいでは死なぬ」
姉はあたしをじっと見つめると言った。
「イリーナ。お前はレン・ウォーカーを好いてるわけではないのだろう?
ヤツを婿に迎えるという、わたくしの提案を断ったではないか。
......であれば、ウォーカーがどうなろうと、どうでも良いではないか」
「そう言う問題ではございません。
あまりにも酷すぎます」
あたしは、とうとう食卓の席から立ち上がってしまった。
壁際に並ぶ兵士の一人がビクッと肩を揺らした。
「わたくしは、亡き夫......ルーベンを愛してはいなかった」
姉が唐突にそんなことを言い出したので、あたしは驚いた。
「......えっ?お姉さま、何を言い出すの」
「イリーナ、お前も分かっていただろう。
わたくしは、ルーベンを愛してはいなかった。
当然、彼とは政略結婚であったからのう」
姉は、スープをひとくち、飲んだだけで他の食べ物には手を付けない。
ぼんやりと遠くを見ている。
「わたくしには、心から好いておる男がおったのだ。
だが、国のためにルーベンと婚姻を結んだ」
「....そう......だったの......?
でも今、その話に何の関係が......」
姉の言葉にあたしは戸惑った。
姉は何が言いたいのだろう。
「お前にはそんな思いはさせたくないのだ。
好きな男と結ばれて欲しい」
姉はそう言うと、ゆっくりと、あたしの方へ視線を向けた。
「レンさまのことは......確かに好きです。
でも彼の心は妻にむいています」
「そんなことは、どうでもいいではないか。
お前が好きかどうかが重要なのだ。
お前には好きな男と結ばれ、幸せになって欲しい」
あたしは首をブンブンと横に激しく振った。
「とにかく!!
今は、とにかく、レンさまを牢屋から出してください。
お願いです」
涙ながらに姉に懇願した。
あたしは大声を出し、興奮していた。
「......うっ」
とつぜん、息が苦しくなった。
「イリーナ?」
姉が目を見開き、食卓から立ち上がる。
「ゴホッ、ゴホッ」
あたしは咳き込んだ。
いつもの咳の発作だった。
口に手を当てて咳き込んだ。
苦しくて、口から何かを吐き出してしまう。
「イリーナ!!血が.......」
あたしの手にはべったりと血がついていた。
「だ、大丈夫です。ゴホッ!
......喉が、喉が切れたんだわ、大声を出したから......」
姉はあたしの言葉を無視して、執事に命じた。
「治療師とシャーマンを呼べ。
いますぐにだ」




