【レン】奇襲攻撃
「こちらへどうぞ」
店主に案内されて、古書店の奥へと移動する。
樫の木の重みのあるドアを開けたそのさきは、カーテンの締め切られた薄暗い部屋だった。
部屋の中央には大きな書見台の乗った白木のテーブルが置かれている。
書見台の他にはなにも置かれていない。
部屋には絵画も、花も飾られていなかった。
(ずいぶんと飾り気のない部屋なんだな)
「書物に集中するための部屋です。
邪念をよせつけないため、いっさいの装飾を省いております」
店主はこちらの心を読んだかのように、つぶやくと一礼して部屋を出ていった。
「アリッサはここでよく読書をするのか?」
簡易なつくりの木の丸椅子に、腰を下ろすとアリッサに尋ねた。
アリッサも丸椅子に座る。
「そうよ。
ここにいると、とても集中できるの」
アリッサは読書好きだった。
俺の屋敷でも一日中、時間を忘れて書物に夢中になっていたのを思い出す。
「ここなら邪魔は入らないわ。
レン、さっきの話の続きを聞かせて」
「わかった」
ヒビの入った灰色の壁を見つめた。
「なにから話せばいいかな」
頭の中を整理して、話しの糸口を見つける。
「5年前......アリッサがうちの屋敷で高熱を出したとき......」
「うん」
アリッサが真剣な目で俺の顔を見ている。
そのとき
バタン!!
部屋のドアが乱暴に開かれた。
「大変です。ベルナルド家が大変な事態になりました」
ドアを開けて飛び込んできたのは、俺たちを街まで運んだ馬車の御者だった。
真っ赤な顔をして、ハァハァと息があらい。
俺はアリッサをかばうように彼女の前に立ちはだかった。
「落ち着け。なにが起きた」
「ベルナルドの屋敷がタダールの兵士に攻め込まれたと。
じきにこの街でも略奪が始まるかもしれない!」
「なにっ......」
屋敷が攻め込まれた?
略奪が始まる?
とつぜんの出来事に頭がついてこない。
「アリッサ、タダール家はベルナルド家の親戚じゃなかったのか。
友好的な関係だと聞いていたが」
アリッサの方を振り返ると、彼女は顔面蒼白で目を見開いている。
「親戚......。そうなんだけど.....」
アリッサは御者に詰め寄った。
「父は......。父と母は?
ぶ、無事なの?」
御者はうつむいた。
「わかりません。
お嬢様にこの事態を知らせるために、屋敷からなんとか抜け出した兵士が一人いて。
そいつが言うには、とつぜんの奇襲攻撃を受けたと。
そこまでしか分からないんです」
「そんな」
「大丈夫だ、アリッサ」
震えるアリッサの肩に手をかけた。
 




