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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
王都にて_女王の狂気と大蛇の血
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【レン】夢だと思い込む【イリーナ】だらしのない身体つき


【レン】


頭痛がする。


朝日が眩しくて目が覚めると、ソファで眠り込んでいたことに気づいた。


昨夜は火酒を飲んだあと......娼婦のような女たちが部屋に来て.......。

俺は、女たちに服を脱がされて襲われた。


......しばらくして、アリッサが俺を助けに来てくれた。


......ハハハ。

ありえない。

頬をつよく叩いた。


夢だったんだろう。

アリッサがここに来れるわけがないじゃないか。


火酒を飲んだあと、ひどく酔っ払って変な夢を見たってところだろう。

そうとしか思えない。

服が脱げているのも、自分で暑くなって脱いだんだ。


(酔いつぶれるなんて情けない。

しばらく禁酒だ!)


------------------------------------------


【イリーナ】


「イリーナ。会いたかったよ」


グレゴリー・トッドは、城のエントランスホールでモジモジしながら立っていた。


「こんにちは.....グレッグ。

今日は天気が悪いし、無理してこなくても良かったのに」

あたしが冷たく言うと、彼は

「そんなこと言わないでくれよ」

と情けない顔をした。


彼ったらまた太ったのかしら。

グレッグのお腹はベルトの上に乗っていた。

ぷくっと膨らんだ頬に、二重あご。

きちんとタイを締めているけど、なんだか息苦しそうだ。


(全く。どうしてこんなに、だらしのない風貌なの?)


グレッグのことを「クマさんみたいで可愛い」という令嬢もいたけど。

あたしはとてもそうは思えない。


レンさまのように贅肉なんて欠片もないような......そんな人のほうが良いに決まってる。


グレッグの姿を、頭のてっぺんからつま先まで眺めてため息を付く。


「このままだとお前はトッド卿と結婚することになる」

そうなのよね......姉の言う通り。


グレッグとは、幼いころから親戚づきあいがあって、小さい頃からよく一緒に遊んだ仲だった。

そう......グレッグとは友達関係。

今さら彼を「男」としてみれない自分がいた。


「グレッグなんかと結婚したくない」

姉にそう泣きつけば、きっと別の相手を探してくれるだろうけど。


冷酷で性格の悪い男や意地の悪い男に当たってしまったら目も当てられない。

少なくともグレッグの性格については、あたしはよく知っていた。

彼は虫も殺せないような性格だし、意地悪なところはないはず。


よく知らない男と一緒になるよりは、グレッグのほうがマシ......。

今まではそう思っていた。

少なくとも.......レンさまに出会うまでは。


レンさまの見た目だけでなく、妻を大切に愛する気持ちも知って

......あたしはますます、彼に夢中になってしまったのだ。


彼の心はアリッサにあるのかもしれない。

それでも、やっぱりあたしは彼が好きになってしまった!

だって素敵なんですもの。


彼を妻から奪うなんて......そんなことは出来ないけど。

好きでいることくらいは自由よね......?


「さぁ、いつまでもそこに突っ立ってないで、お茶でも飲みましょう」

あたしはグレッグに背中を向けた。


---------------------------------


「イリーナさま......」

急に前方から人影があらわれて、あたしはびっくりした。


眼の前で、レンさまがお辞儀をしていた。

彼のことを考えていたから、あたしはことさらに慌てふためいた。

それに昨夜......ソファの上で抱きしめられたことを思い出して、頬が熱くなる。


「レ、レンさま......ご気分はいかがでしょうか」


「えっ?気分ですか」

キョトンとした顔が可愛い。


レンさまは、昨夜、娼婦たちに襲われそうになったことを忘れているようだった。

もちろん......あたしを抱きしめたことも忘れていらっしゃるのだわ。


(気を失って、朦朧としていたのだもの、無理もないわ)


「いえ、お疲れではないかと思いまして」

あたしはそう言ってごまかす。


「お心遣いありがとうございます」

そう言って、爽やかな笑顔を見せる。


「お城を退出したく王女の謁見をのぞんでいるのですが......。

今日もそれが叶わなかったので、時間をもてあましております。

身体がなまるといけないので、今から剣術の稽古を行うところなのです」


レンさまはそう言うと、シュッ、シュッと剣を振るう仕草をして笑った。


「常に鍛えてらっしゃるのですね......素敵です」

思わず、本音を口にしてしまう。

あたしがうっとりと、レンさまを眺めていると、グレッグが指先であたしの肩をつついた。


「こちらは、どなたなんだい?イリーナ」

(あぁ......。グレッグの存在を忘れていたわ)

あたしは、グレッグに、レンさまを簡単に紹介する。


「へぇ。ベルナルド家の......。

僕はイリーナの婚約者なんです」

グレッグは、鼻の穴をふくらませて、レンさまに向かってそう言った。


「お目にかかれて光栄です」

レンさまは、そう言うと、一礼した。


「お庭で稽古なさるんですか?

見学してもいいかしら」

「......えぇっ、なんでだよ......」

隣でグレッグが、小さい声で抗議する。


あたしの言葉に、レンさまは驚いたように眉を上げた。

「見てもつまらないものですよ?」


「いえ、ぜひ見学させてください」

あたしは食い下がった。


結局、レンさまはあたしたちが見学することを了承してくださった。

彼のピンと伸びた背筋を追いかけるように、あたしとグレッグは懸命についていく。


「あいつ......なんか、キザな感じがするよね?」

グレッグが、小声であたしに話しかける。

「キザなんかじゃないわ!素敵なひとよ」

あたしがそう言うと、グレッグは丸い頬を、もっと丸くしてふくらませた。

「なんだ?イリーナはあいつが好きなのか?」

「そうよ、彼って素敵だもの」


グレッグにはなんでも話せるから、本音を言った。


グレッグだって、あたしのことを愛してなんかいない。

親に決められているから......仕方なく結婚するだけ。

だから、なんでも言える。


「あいつは、結婚してるんだろう?」

グレッグは口をとがらせて言う、

「仕方ないじゃない、好きになったんだもの」

「......」


---------------------------------


レンさまの剣術の稽古が始まった。

剣の素振り、身の捌きを何回も行っている。


側で見ていた兵士が

「百戦錬磨とお噂のレン・ウォーカー殿、ぜひ、手合わせ願いたい」

と言って頭を下げた。


手合わせは、木刀をつかって行うようだった。


「バシーン!!」

木刀と木刀がぶつかり合う。


あたしはドキドキして戦いを見ていた。

レンさまがお怪我したらどうしよう!


くるり、くるりと身を素早く交わし、たくみな剣さばきで相手を翻弄するレンさま。

次第に、他の兵士も集まり始め......人だかりができた。


それほど、その戦いは人を魅了するものがあった。


「手加減してますよね?」

兵士がレンさまに言うのが聞こえた。

その瞬間......。


「カーン!!」

レンさまが兵士の剣をはじいた。


「長く戦って、持久力を付けたかったもので。

つい手加減した」

相手の喉元に剣を当てたまま、レンさまはそう言った。


「かっこいい......」

あたしは思わずそう呟いた。


それを隣で聞いていたグレッグがとんでもないことを言い出した。


「レン・ウォーカー!!

俺と戦ってみろ!!」


「グレッグ!?」

あたしはぎょっとして、彼の腕を引っ張った。




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