【レン】襲われる
【レン】
うーん。
......どう書こうか。
筆を右往左往させていると、インクがポタリと垂れてしまい、紙をムダにした。
俺はアリッサに手紙を書いていた。
城での滞在が長引きそうなことを彼女に知らせたかったのだ。
だが
「女王に引き止められている」
などと書けば、アリッサは心配してしまうだろう。
かといって、サッサと仕事を済ませられない「無能な男」だと思われても嫌だし。
結局
「なかなか謁見が叶わず、滞在が長引いている」
などという嘘の混じった文章を書いた。
手紙を書き終えて、椅子から立ち上がり伸びをした。
(きれいな月だな)
窓から満月が見えた。
青白く輝いている。
(アリッサも、同じ月を見ているといいな)
そんなことをぼんやりと考えていると、ノックの音がした。
「お飲み物をお持ちいたしました」
という声がドアの向こうからする。
「えっ......」
と戸惑っていると、使用人がトレイの上にアルコールを乗せて、部屋に入ってきた。
手慣れた様子でローテーブルの上に、アルコールの入った瓶とグラス、それにナッツなどの菓子を配置していく。
「こちらは、この地方特産の火酒になります。
ぜひご賞味ください」
そう言って、一礼すると、部屋から出ていった。
(へぇ......少しだけ飲もうかな。
よく眠れそうだし)
俺はソファに座ると火酒を口にした。
飲んでいるうちに猛烈に眠くなる。
(おかしいな......なんだこの眠気は)
ソファに座ったままウトウトしていると急にドアが乱暴に開けられた。
(夜更けに、ノックもせずに非常識な)
3人の女たちが部屋になだれ込んできて、驚いた。
「なんなんだ、お前たちは!?」
ぎょっとしてソファから立ち上がろうとしたが、なぜか足に力が入らない。
(娼婦か......!?)
女たちはみんな、下着のような露出の高い服で、化粧が濃い。
むせ返るような香水と化粧の匂いが部屋に充満した。
「呼んだ覚えはない。
部屋を間違ってないか」
出ていくように、追い払う仕草をしたが、女たちは無言で俺を取り囲んだ。
「女王さまのご命令です。
レン・ウォーカーさまですよね。
貴方様をご満足させるようにと命じられております」
「はぁっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「さぁ......。リラックスなさってください」
女の一人が、俺のシャツに手をかけボタンを外そうとする。
「さわるな。必要ない」
女の手を振り払おうとしたが、力が入らなかった。
「すぐに出て.......い、行ってくれ。俺は......」
呂律も回らなくなってくる。
(おかしい、さっきの酒になにかが入っていたのか)
「かわいい。
こんないい男が相手だなんて、あたしたち、ラッキーだわ」
女の一人がくすくす笑いながら言う。
「ほんと、すごい体つきじゃない」
そう言いながら、シャツを脱がせはじめた。
(俺は、襲われるのか!?そんなバカなこと)
意識が朦朧とし、身体に力が入らなかった。
「くそっ......。やめろ」
クビだけを動かして、ジタバタしたがダメだった。
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「レンさま......レンさま。
大丈夫でございますか」
遠くから女の声がする。
「アリッサ......?」
アリッサが助けに来てくれたのか。
情けないな。
こんな姿を見せることになるとは。
「あぁ......イリーナでございます。
姉がなにかするのではないかと、心配で......。
貴方のお部屋を、手の内のものに見張らせておいてよかった」
「アリッサ......抱きしめてくれ」
俺は朦朧とした意識のなか、アリッサの手を必死に握りしめた。




