【ニナ】ジョアンナの出発
【ニナ】
「新しい使用人も入ったことだし、もう寂しくないでしょ?」
ジョアンナが旅行カバンを片手に屋敷の玄関に立っていた。
「寂しいわ!!ジョアンナ行かないで」
私は彼女にしっかりと抱きついた。
ジョアンナがいなくなることを想像するだけで寂しさで胸が張り裂けそうだった。
「ニナ......。彼女が決めたことだ」
あたしとジョアンナが抱き合っている背後から、ディルの声がした。
「ディル......あなたがジョアンナをクビにしたの......?」
「いいえ、違うわニナ]
ジョアンナが答えた。
「ディルさまは引き止めてくださった。
でもあたしが、自分で出ていくことに決めたの......」
ジョアンナが、私の両肩に手をかけて、しっかり目を見つめて言った。
「なぜ?ここにいてくれればいいのに。
なぜ、出ていくの?」
私は涙を拭きながら聞いた。
「生まれ変わったつもりでイチからやり直したい。
ここにいたら、どうしても甘えてしまうし......」
「甘えたって良いのよ」
「ダメなのよ」
ジョアンナはそう言うと、私の前髪を撫でつけた。
「あたしは、ヴェッセルの街にいるわ。
あの街で、商売を始めるつもり。
なんとか成功してみせる......。
ニナ、いつでも会いに来たって良いのよ」
「ヴェッセルに......?」
ジョアンナはコクリと、うなずいた。
ジョアンナは私の胸元の縦になっているリボンを結び直してくれた。
「そうよ。
一生のお別れじゃないわ」
そう言って微笑む。
「ニナ、あなたのお陰で、たくさん気付かされたわ。
そして目が醒めたの」
ジョアンナは、私をぎゅっと抱きしめた。
「ジョアンナ、やっぱり寂しいわ。
私にはあなたが必要よ」
そういって、彼女の腕にしがみついた。
一緒にお茶を飲みながらたくさんおしゃべりしたこと。
髪をとかしてもらったこと。
盗賊たちに立ち向かうとき.....彼女に頬を打たれたこと。
そして、ずっと側で励ましてくれたこと。
涙が溢れ出た。
「もうあたしは必要ないわ。
あたしは家庭教師として、雇われた。
でも、ニナに教えることなんて何も無い......ニナは独りで大丈夫」
首を激しく横にふる。
「......」
「ジョアンナ。
困ったらいつでも戻ってくるんだ。
君はニナの命の恩人でもある......。
それに、いろいろ助言してくれたこと、感謝してる......ありがとう」
ディルが言った。
「ディルさま、お世話になりました。
ヴェッセルで一番の商人になってみせます。
見ていてください!」
ジョアンナはそう言うと、くるりと背中を向けた。
寂しかった。
でも......ふと、ジョアンナの言葉を思い出した。
「ニナのやりたいことを取り上げないであげてください。
彼女の幸せを奪うことが、愛なんですか!?」
彼女は、ディルにそう言ってくれた。
ジョアンナも自分のやりたいことを見つけたのよね。
私は彼女を応援しないといけないのだわ。
「ジョアンナ......がんばって!!」
私は彼女の背中に向かって叫んだ。
ジョアンナは振り返らずに、片手を上げた。




