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【ジョアンナ】悪い考え


【ジョアンナ】


今まで嘘をついてきたことを、ディルさまとニナに告白した。

ディルさまは、私のことを屋敷から追い出すだろう。


(いつ追い出されても良いように、荷造りをしておこう)

自分の旅行カバンを探す。

(あら、どこにもないわ)


そうだわ!

カバンは、正門の木の陰に置いてきたんだ!


盗賊団を蔵に閉じ込めているニナを見捨てて、自分だけ逃げ出すつもりで.......。

あのときに、旅行カバンにニナの宝石を詰めて、屋敷の門のところに隠したんだわ。


慌てて門まで走る。


木の陰に旅行カバンを見つけてホッとため息を付いた。

(良かった!無くなってたらどうしようかと思ったわ)


カバンを持ち上げて、ふと頭に悪い考えが浮かんだ。


(このまま、これを持って逃げ出せば良い)


これだけの宝石があれば、20年いやもっと......遊んで暮らせる。

商売を始めて、たとえそれが失敗したって、これだけ財産があれば余裕だし......。


旅行カバンを握りしめる手のひらに、汗がじっとりと浮かぶ。


ディルさまに今追い出されたら、あたしの財産は......わずかな報酬とニナからもらった宝石しか無い。

すぐに食うに困る生活が待っている。

身体を売るしかなくなる可能性だってある。

このカバンを持って逃げ出せば、そんな不安から解放されるのだ。


屋敷の門の先には、薄暗い小道が続いているのが見えた。

陽の光がところどころ差し、鳥の鳴き声が聞こえる。


(このまま、あの道を進もう。

このカバンを持って逃げれば......そうすれば安楽な生活が待っている。

あたしにだって、そんな人生を歩む権利があるはずよ)


誰にもバカにされない生活。

見下されずに、一人前だと認められる生活。


一歩......足が前へ進んだ。

もう一歩。

また一歩。


屋敷の門をくぐろうとした所で、あたしの足が止まる。


脳裏にニナの顔が浮かんだのだ。


あたしが彼女の部屋に勝手に入って、ドレスや宝石を身に着けていたとき......。

あのときの会話が思い出される。


「あ、あたしが泥棒するつもりだったら、どうするんですか」

あたしがそう言うと、ニナは首を傾げて


「泥棒?

ジョアンナはそんなことしないもの」


そう言ったのだった。


もう人を裏切らないって決めたんだ。

あたしはニナの信頼を裏切りたくない。


あたしはくるりと方向転換すると、屋敷の方へと戻っていった。

(ニナの部屋に宝石を返そう)


不思議と今までに感じたことがないくらい穏やかな気持ちになった。


---------------------------------


ニナの部屋で宝石を元通りに収納した。


(これで、大丈夫......。

さぁ、自分の荷物をまとめなきゃ)


そう思って、部屋から廊下へ出ると、ニナがディルさまの執務室から飛び出してきた。


ニナは涙を浮かべて真っ赤な顔をしている。

(二人のあいだで何かあったんだわ......)


ニナは廊下にいるあたしに気がついた。

「ジョアンナ!!」

と大きな声を出しながら、駆け寄ってくる。


「どうしたの?ディルさまとケンカしたの?」

ニナのブラウスのボタンが途中まで外されていることに気づいた。


「私は......や、闇の森で働きたいの......でもディルはダメって言うの。

だから悲しいの」

ニナはそう言って、しくしくと泣き出した。

「闇の森で働きたいって......サイラスの収穫をしたいってこと?」

ニナはコクンとうなずくと言った。

「サイラスとか......他の山菜や、薬草を収穫したいの」


(なるほど)


ディルさまのお気持ちが痛いほど分かった。


ニナは、闇の森で怪我をして死にかけたし、今回は盗賊団に襲われた。

彼女を安全な屋敷に閉じ込めておきたい......ディルさまがそう考えてしまうのも無理はない。


彼は、ニナのことを心から愛してる。

だから心配で仕方ないのだわ。


でも......。

でもニナは、自分のやりたいことを見つけたのね。

たとえ危険な目にあっても......それでも、やってみたいことが彼女にはあるのよ。


ニナは涙の溜まった大きな瞳をうるうるさせて、あたしの顔を見上げた。

彼女の服のボタンを、上まで止めてやりながら、あたしは言った。


「少し落ち着いたら、ディルさまのところへふたりで行きましょう?

ディルさまは、あたしの話なんて、聞いてくださらないかもしれない。

でも、できる限りニナに協力するわ」



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