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【ジョアンナ】すべての告白


【ジョアンナ】


ティナが生きていたのには、驚いた。

「ぎゃああああ」という叫び声を聞いて、刺されて死んだものかと思っていたのだ。

だが違った。

片腕を折られただけで、ピンピンしている。


「ワシは、入れ墨の強そうな男を一人倒したんじゃ」

嘘かホントかわからないけど、そんなことをドヤ顔であたしに自慢してきた。


「アハハ!さすがだわね」

あたしは、ティナが死んでなかったことを心から喜んでいる自分に驚いた。

いままで、他人の生死なんてどうでも良かったのに。


ニナの「強さ」を知ったせいか。

そして死の淵から蘇ったせいもあるだろう。


すっかり気持ちが入れ替わっていた。


(もう、人を裏切ったり......ダマしたりするもんか。

そして、不幸を環境や人のせいにしない。

せっかく生き延びたのだもの。イチから生まれ変わってやり直すわ)


そんな考えが自分に根付いた。

さらに、自分の中で「ある決心」をした。


「コンコン!!」

使用人部屋でぼんやりしていると、ノックの音がした。


「ニナよ......ジョアンナ、少しお話できるかしら」


ニナは2日ほど寝込んでいたけど......すっかり元気になったようだ。

「えぇ......あたしも話しておきたいことがあったの」



-------------------------------


狭い使用人部屋に入ると、ニナは書き物机の椅子に腰掛けた。

あたしはベッドに腰掛ける。


ツヤツヤの黒髪に大きな目。

頬には赤みがさしてる。

すっかり元気になったみたいね。


「ニナ、話があるのよね?先に話して」

ニナはコクリとうなずいた。


「大変なことになったの」


(今度は、なにが起こったって言うのよ)

ニナの言葉に、思わず身構える。


ニナは突然、しくしくと泣き出した。

「ちょっと!ニナ、どうしたのよ?

なにがあったの」

あたしは慌ててベッドから立ち上がると、ニナの方に駆け寄った。

彼女の背中を撫でてやる。


「ディルに.....」

「ディルさまがどうかしたの」

「ディルに裸を見られてしまったみたいなの。

もう離婚しか無いのかしら」


彼女の言葉に、(なんだ、そんなことか)......と思わず肩の力が抜ける。

と、同時に罪悪感もおしよせてきた。


あたしが嘘をついたせいだわ。


【裸を見られたら離婚になるわよ】

ディルさまとニナの仲を引き裂いてやろうと思って......。

軽い冗談のつもりもあって、そんなことを彼女に吹き込んだんだわ。


そのせいで、ニナはこんなに悩んでしまっている。

きっとディルさまだって......悩んでるわよね。

あたしはなんて、罪深いことをしたんだろう。


「ニナ。そのことで話があるの。

......あぁ、でもディルさまにも聞いてもらったほうが良いわね。

3人で少し話せる時間があると良いのだけど」


---------------------------------


「嘘をついていた......?」


ディルさまの執務室。

ディルさまとニナは並んでソファに座っていた。


二人が並んで座っているのを見ると、こんなにお似合いのカップルはないと思った。

愛し合ってるし、支え合っている。


「そうです。私は嘘つきです。

罪人として司法に差し出してもらっても良いんです」


貴族の家で働いていたときに、実際に盗みを働こうとしたことを話した。


「濡れ衣だって、そう言っていたのは嘘だったのか」

ディルさまは腕組みして考え込んでいる。

「そうです」

あたしは、キッパリと言った。


「このお屋敷に着てからは......ディルさまとニナの仲を妬んでいました」

「俺たちの仲を!?」

ディルさまとニナは、見つめ合って驚いた顔をしている。


「そうです。お二人の仲を引き裂こうとして、嘘もつきました」

ニナに吹き込んだ「裸をみせたらいけない」という嘘をついたことを白状する。


あたしはソファから立ち上がると、床にふせた。

「ほんとうに申し訳なく思っております

すみませんでした」

そう言って、頭を床に擦り付けた。


涙は流さなかった。

泣いて謝るつもりはない。

涙は自分への同情になる。

あたしは、今までの自分を軽蔑していた。


「ジョアンナ......あれは嘘だったの......」

ニナの声が聞こえてきた。


ニナが床に頭を付けている、あたしの側に近づいてきた。

「ジョアンナ、頭を上げて、こっちを見て」

「......」

あたしはニナの言う事を聞かずに、床に頭を付けたままでいた。


「こちらを見なさい」

急にニナが厳しい声で言った。

「......ニナ?」

あたしは、床から顔を上げた。


「あなたは、間違ったことをしたかもしれない。

でも犯罪は犯してないわ。

貴族の家では、盗む前に見つかったのでしょう?」

「......そうだけど」


「私に嘘をついたのも、あなたの犯した間違いだけど......犯罪ではない」

「そうだけど、悪いことをしたわ」

あたしは、また床を見つめた。

涙が出そうだったが我慢する。


「カークのことだが」

ディルさまが厳しい声であたしに問いかけた。

「彼が犯罪者だと知っていて、雇い入れたのか?」


「知らなかったです。それは、本当に......知らなかった。

ただ、カークに、ニナのことを誘惑してほしいと吹き込みました」

「なにっ」

ディルさまの顔色が変わる。


「あたしは間違いを犯しました......。

罪人として引き渡されなくとも、もちろん、このお屋敷を出ていきます」

あたしがそう言うと、ニナが叫んだ。


「ダメよ!!そんなのダメ......行かないで」


「だが、ニナ......。ジョアンナのことはもう信用できない」

ディルさまが冷たい声で言う。

「彼女は心を入れ替えたようだが、いつまた、気が変わるか分からないじゃないか」


「ディル、あたしもあなたに嘘をついたのよ!

だからジョアンナと同罪だわ」

「えっ!?」

ディルさまが今度はニナの方をじっと見る。


「私はカークと......彼と二人で闇の森に行ったの。

ディルには内緒でね。

カークのヒザの上に座ったのよ。そして身体を触られたの」


「えぇ!?ヒザの上!?身体を!?

ニナ、順を追って説明してくれないと分からない」

ディルさまは混乱していた。



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