【ニナ】ジョアンナの裏切り
【ニナ】
「ニナ......?蔵のカギが、どこにあるか知ってるか?」
カークが私のアゴをグイと持ち上げて、そう聞いた。
私は彼から目をそらした。
「知ってるようだな?」
私は首を横にふる。
屋敷の財産は守らなくちゃ。
叔父さんやお兄ちゃんが一生懸命集めたものだもの......。
「その猿ぐつわを取ってやらないと喋れないんじゃないか」
男の一人が、私のほうへ手を伸ばしながら言った。
「ダメだ。火の魔法を唱えられたら、俺たちは黒焦げになるぞ」
カークが慌てて仲間を静止する。
そこでまた、別の男の声がドアの方からした。
「おい!カーク、お前の仲間だって言う女がいたんだけど」
声の方へと視線を向けると、男の背後には、ジョアンナが立っていた。
(ジョアンナだわ!!助けて!)
私は目を見開いて、ジョアンナを見つめる。
ジョアンナと私の目が合った。
でも彼女の目は無表情だった。
カークはジョアンナを見ると、ニヤリとうなずいた。
「あぁ......その女のお陰で、俺はこの屋敷に入り込めた。
別に、仲間って訳ではないけどな」
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「おい!こんな狭いところで、大勢で話すのは息が詰まる!
大広間で話そうぜ」
カークがそう言うと立ち上がった。
「ニナも一緒に来るんだ」
カークが私の腕を引っ張る。
私は抵抗した。
「服が破けていて、恥ずかしいんだな?
確かにその姿だと、男たちが集中できなそうだ」
カークはそう言うと、自分のマントを私に着せた。
丸出しになっていた胸が隠れて少し安心したけど、私はカークをにらみ付けた。
(どうして、こんなことするの?
私やディルは、ただ静かに......善良に暮らしていただけなのに。
何の恨みがあるっていうの)
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大広間に入るなり、10人ほどいる男たちの前で、ジョアンナが宣言した。
「あたしは、あんたたちの仲間になるわ」
(仲間......!?そんな.....ジョアンナ、嘘よね)
私は絶望的な目でジョアンナを見つめるが、彼女はこちらを見ようともしない。
「へぇ......?あんたを仲間にする意味が俺たちにあんのかよ?」
ヒゲづらの男がジョアンナの方へアゴをしゃくる。
「あんたたちにメリットは有るわ」
ジョアンナは堂々とした身振りで彼らに話す。
「あたしは闇の森の資源のありかや、危険な場所もディルさまから聞かされている。
つまり森を知り尽くしているのよ。
当てずっぽうに歩き回っても、闇の森の貴重な資源は、見つからない。
それどころか、底なし沼や蟻地獄にハマって命を落とすのが関の山......」
「ほう......。だったら、お前を拷問して、資源の場所を吐かせれば良いんじゃねーか」
顔にイレズミを入れた男が、ジョアンナにナイフをちらつかせた。
「2日後には、火の魔法使いのディルさまがお戻りになるのよ?
2日間であたしから情報を聞き出せなければ、あんたたちはディルさまに燃やされて死ぬ。
のんびり拷問してる時間なんてあるかしら?
あたしは2日間くらい耐え抜くわよ。
どうせ殺されるんなら、情報なんて吐かない」
「この女、頭が切れる。仲間にしてやっても良いんじゃねえか。
もともと、カークの仲間だったみてぇだし。
なぁ、カーク?」
「そうだな、別にいいんじゃないか」
カークがうなずいた。
男たちのリーダー格だと思われる男が、言った。
「お前を仲間にしてやってもいいだろう。
まずは教えてもらおう。
庭にある、蔵のカギはどこなんだ」
「蔵のカギ......?」
ジョアンナは首をかしげる。
「いかにもお宝が眠ってそうな蔵だったぜ!
中には何が入ってるんだ?」
男たちがワイワイと声を上げる。
「中になにがあるのかは、私は知らない。
でもカギなら、たぶんディルさまの執務室の引き出しだと思う。
カギ束が入っているのを見たことがあるのよ」
ジョアンナは男たちにそう言った。




