【ジョアンナ】計画を立てる【ニナ】拘束
【ジョアンナ】
ティナとあたしは、2階奥の空き部屋に隠れた。
(ここが見つかるのも時間の問題ね......)
どうすれば、この状態から生き延びられる?
どう行動するのが正解?
......あたしは「生きる残るための計画」を頭の中で、練り上げた。
そうね。
生き残るためには......この計画を実行するしかないだろう。
「あたしは敵のもとへ行くわ。交渉してくる」
ティナにそう伝えた。
「なんだって?」
ティナが小声でささやく。
「ここはいずれ見つかるわ。
こうして隠れていても死ぬ確率が上がるだけ」
「......ワシも行く。敵を一人でも殺してやる」
ティナは怒り狂った目をしていた。
「ニナさまを......奥さまをお救いせねば」
そんなことをブツブツつぶやいている。
ティナは足手まといだ。
このババァが、あたしに着いて来るのは正直、困る。
余計な混乱を招いて、ババァと一緒にあたしまで殺されてしまう確率が上がるだろう。
だから、あたしはババァを説得した。
「あたしに任せなさい。
敵と交渉できたら......。
ティナ......あんたのいるこの場所が探られないように、うまく敵を誘導する。
ニナのこともきっと救い出すから。
だからあんたは、ここに大人しく隠れていなさい」
あたしがそう言うと、ティナは目を見開いた。
「ワシはあんたのこと......盗人だと奥さまに突き出したのに......」
「フン。もう済んだことよ」
ティナは大人しく空き部屋のクローゼットに隠れてくれた。
あたしは、部屋からそっと一歩出ると、廊下をゆっくりと歩いた。
あたしはカークをこの屋敷に連れてきたことを、後悔した。
カークは盗賊団と関係していた。
カーク自身が盗賊団の一味なのか、それともやつらの手先なのか......それはよくわからないけど。
とにかく関係していたんだわ。
あいつは、あたしが思っているよりも、かなりの悪党だったってこと。
闇の森やこの屋敷は、民衆から「恐ろしい場所」だと認識されていた。
だから今まで、襲われずに済んでいたのに。
なのにカークが
「闇の森も屋敷も、べつに怖くもなんとも無かった」
さらに
「あるじの火の魔法使いは、2日間ほど留守になる。
残るのは、弱々しい女の魔法使いだけ!いまが屋敷を襲うチャンスだぞ!!」
そんなことを、盗賊団の仲間に漏らしたんだろう。
とんでもないことになってしまった。
「おい!!見ろよ。女だ!!」
廊下の先から、下卑た男の声とピューという口笛が聞こえる。
あたしの大嫌いな、頭の悪い下品な男どもだ。
「あたしは、カーク・マティスの仲間よ。
あたしが彼をこの屋敷に招き入れた。
カークはどこにいるの?!」
あたしは、毅然とした態度で、男たちに向かって叫んだ。
足は小刻みに震えていたが、声は震えなかった。
----------------------------------
【ニナ】
「う......」
どれくらい気を失っていたんだろう。
目を開くと、使用人部屋のベッドに寝かされていた。
小さな窓から光が差してるから......そんなに時間は立っていないはず。
口に猿ぐつわをされ、両手は縛られている。
(これじゃ、魔法は使えないわ)
なんとか起き上がって、イモムシみたいにベッドから降りる。
ベッドの下の床の上にうずくまった。
泣いたらダメ!
そう思っていたのに、涙が目に溜まって溢れてくる。
情けないわ。
カークに捕まる前に、彼を燃やすことができなかった。
あのとき.......。
ゴーレムの主人......私を誘拐した男に火を付けたとき。
彼は、燃え盛る炎の中で苦しそうにのたうち回っていた。
あの光景が今でも目に焼き付いている。
あのときはディルを助けたくって無我夢中でやったけど......。
人間に火を付けるなんて、私には無理だわ。
恐ろしくてできない......。
ポタポタと涙が床に落ちた。
「ギィイイイ......」
きしんだ音を立てて、使用人部屋の扉が開いた。
(だれ!?助けて!!)
視線を扉の方へ向ける。
扉を開けたのはカークだった。
「ん......」
(カーク、縄をほどいて)
猿ぐつわのせいで、言葉に出来ないけど、私は彼に目で訴えた。
「気がついたんだね、ニナ......。
乱暴なことしてごめん。
でも、燃やされたら困るからさぁ」
そういいながら、しゃがみこむと、私と目線を合わせる。
彼の手が私の頬に触れた。
私の頬からこぼれ落ちる涙を、カークが指でぬぐう。
(やめて!)
私は、足とお尻で床を後ずさりした。
でもカークにつかまってしまう。
「ん....うぅ」
カークに床に押し倒され、首を左右に振った。
足をバタバタとさせる。
「ニナ......始めてみたときから、可愛いなって思ってた。
火の魔法使いだというから、どんな貫禄のある女かと思ったら......こんな可愛い子でびっくりした」
「ん.....んん!!」
「大人しくするんだ」
カークはナイフを取り出すと、私の頬に当てた。
「んっ!!」
ナイフの冷たい感触にゾッとして、動きを止める。
「いい子だ......」
カークはナイフを肌の上ですべらせる。
ナイフは首筋をとおって、肩にあたった。
ドレスの肩紐を着られる。
「んぅ!!」
むき出しになった肩から、服を脱がされ胸があらわになってしまった。
そのとき
「おい!!カーク」
と言う声と、ドンドン!!とドアをノックする音。
扉が蹴破られ、勢いよく開かれる。
(誰なの?カークの仲間!?)
私は慌てて、身体を二つ折りにして身体を隠す。
入ってきたのは数人の男たちだった。
「カーク、お楽しみ中、悪いな!」
「えぇ......これが火の魔法使いの女なのか?
可愛いただの小娘じゃねえか」
ジロジロと見られる。
「なんなんだ?部屋に急に飛び込んできて」
「それがよぅ。中庭にどうしても開かない蔵があるんだよ。
おめえ、鍵のありか、しってるか?」
「この女に聞けばわかるんじゃねぇか?」
(中庭の蔵......。
叔父さまの時代から、貯めてきた屋敷の財産が入っている蔵のことだわ......)
私は、火の魔法を少しでも恐れてほしくて、男たちを懸命ににらみ付けた。
だが男たちはニヤニヤした顔で、私をみるだけだった。




