【ジョアンナ】盗賊【ニナ】捕まる
【ジョアンナ】
ディルさまが屋敷を出発して数時間後......。
屋敷の外が何やら騒がしいことに気づいた。
ゴブリンたちの叫び声が聞こえてくる。
(一体何なの。ゴブリンどもがバカ騒ぎしてるのかしら)
あたしは、廊下の窓から庭を見下ろして、唖然とした。
屋敷の裏門から、見たこともない男たちが数名、ゾロゾロと入り込んできたのだ。
男たちは、ゴブリンに不意打ちを食らわせると次々と捕らえて、縛り上げている。
(大変だわ......。盗賊よ)
足が震えだした。
盗賊に襲われたら、オシマイだわ。
屋敷の財産は根こそぎ奪われ、闇の森の資源もあらかた盗られる。
女はつかまって乱暴され、売り飛ばされるかもしれない。
とはいえ、この屋敷には老人しかいないけど。
......あたしとニナがいる。
カーテンの影に隠れて、さらに様子をうかがっていると盗賊どもの中心にカークがいることに気づいた。
(ど、どうしてカークが......!?)
カークが盗賊を手引した!?
そんなまさか......。
「きぇええええ!!!」
庭師の老人が、長い竹の棒を持って、盗賊に立ち向かっていった。
(バカだわ!!逃げればいいのに、殺される!)
案の定、老人は盗賊の一人にナイフを突き立てられあっけなく絶命した。
「ジョアンナ!!大変だべ」
ティナが、廊下を走ってこちらに向かってきた。
「分かってる。盗賊よ」
「ニナさまは?奥さまはどこにおいでだ?
奥さまを隠さないと」
「隠すと言うか......ニナに、あいつらを火の魔法でやっつけてもらわないと、ヤバいわよ」
あたしは、ティナにまくしたてた。
「さっきまで、書斎で本を読んでおられたんだが」
ティナと二人、階下に降りてニナを探そうとする。
だが
「へぇ、立派な屋敷じゃねぇか」
「化け物なんか、まったく出てこない。カークの言う通りスキだらけだ」
玄関の方から、男たちの声が聞こえてくる。
(まずい、屋敷の中に入られた!)
冷や汗がこめかみをつたう。
ニナはどこにいるのよ。
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【ニナ】
------数時間前、ディル出発の直後。
ディルが行ってしまった。
2日も会えないなんて、寂しすぎるわ。
もっとキスをたくさんしてもらえばよかった。
「話し合いたい」
っていう彼の言葉が気になって仕方ないけど......。
今は考えても仕方ないわね。
私は、書斎の本をいくつか取り出しては、数ページ読み、また元に戻していた。
(ぜんぜん頭に入ってこないわ)
私は、お勉強よりも体を動かすことが好きなのよね。
最近になってようやく気づいた。
でも、すぐに疲れて眠くなってしまう。
体力をつけるにはどうしたら良いのかしら。
そんなことをぼんやり考えていると、急にドアが開いた。
振り返るとカークが立っている。
「カーク、お部屋に入るときはノックしてほしいわ」
私は眉をひそめて、彼に注意した。
「......」
カークは、無言で私の小言に謝罪もせず、ズンズンとこちらに近づいてくる。
「なんなの?」
怖くなって後ずさりした。
「ディルに内緒で闇の森に行ったことなら......
そのことなら、彼にちゃんと話すつもりだから!」
私は近づいてくるカークに向かって、大声で言った。
「あなたが、あたしにしたことも、彼に話すわ!」
「僕がニナにしたこと?」
カークは私のことを呼び捨てで呼んだ。
「そうよ、あなたは私の体に触った。不愉快だったわ」
近づいてくる彼をよけようと、また一歩、後ずさった。
「それ以上、近づかないで。
火の魔法を使うしか無くなる。焼け死にたくないでしょ」
カークを脅したけど、声が震えてしまった。
カークは突然ダッシュした。
彼は背後に回り込み、私を羽交い締めにすると、何かを飲ませようとした。
「ニナ、大人しくするんだ。魔法を使われたら困るんだよ」
グフッ!
口の中に入った液体を慌てて吐き出す。
「や、やめて!!」
激しく咳き込む。
液体を少し飲み込んでしまった。
「......あ.....」
意識が遠くなる。
「両手をしばって、口をふさぐ。
そうすれば、魔法は使えないって......聞いたんだ」
カークの声が遠くの方から聞こえてきた。




