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【ディル】ケンカ


やっぱりニナを闇の森へ行かせるんじゃなかった。


「採取はカークに任せて、ニナはじっとしてるんだぞ」

そう命じたけど、ニナはちゃんと言いつけを守っているだろうか。


ニナのことだからサイラスを見たら、俺の言葉なんか忘れてしまうのではないか。

それで採取に夢中になって、またケガでもするんじゃないか。


心配だ。

やはり行かせるんじゃなかった。


書斎では、ギルドの連中が集まって、ワイワイと話し合っていた。

「隣町から、窃盗団が来て根こそぎ盗まれた」

「やつら、許可なく屋台で販売していた」


......俺は上の空でそんな会話に適当に相づちする。


ギルドの会議が休憩に入ったところで、俺は窓の外をのぞいた。


(ニナとカークはまだ戻って来てないのか?)

屋敷の裏門のあたりに視線を走らせた。


ニナのツヤツヤの黒髪が目に入った。

(戻ってきた、よかった)


ちょっと心配し過ぎかもしれない。

ニナだって、外の空気を吸いたいだろうし......。


そう思って、視線を室内に戻そうとしたとき......。


ニナがカークに寄りかかっているのが見えた。

カークがニナの肩と腰を支えるようにしている。


(ニナが転びそうになったのかな......全く、危なっかしい)

二人の体勢を見てそう思った。

(でも......いやに長く、身体に触れてないか)


カークがようやくニナの身体から手を離す。

だがそのあと、二人がなにかを話し、笑い合うのが見えた。


(やけに楽しそうじゃないか......。

しかも親密な感じがする)


ニナの弾けるような笑顔を見て、胸がチクッと痛んだ。


ニナは最近、俺の前であんな風に笑っていない。

俺に遠慮がちで......ときには怯えたような態度で接することさえある。


(ジョアンナが前に言っていた通りなのかな......。

俺はニナに嫌われている。苦痛に思われているのか)


--------------------------------------


夜になった。

ニナは、寝室の窓辺に立って月を眺めていた。

俺が部屋に入ってくると、パッと振り向く。


「ディル、おつかれさま!

サイラスのことなんだけど」


「あぁ......。カークに聞いた。

まだ育ってなかったって」

「そうなの!でも、あと2日もすれば採取できる大きさになると思うわ」


ニナは水色の薄い寝間着を身にまとっている。

胸のところに白いヒモが付いていて、結んであった。


(あのヒモをほどけば、簡単に脱がせられる。

あの下には、下着しか付けてないだろう)

思わず想像してしまい、あわてて咳払いした。


「闇の森に行くことを許してくれてありがとう。

とても楽しかったわ」

ニナは、窓によりかかるようにしている。

黒い髪がサラサラと流れた。


俺はベッドに腰掛けた。

「......楽しかった?」

そうニナに聞き返す。


カークとニナが笑い合っている場面が脳裏に浮かんだ。

闇の森の泉で......二人きりで......楽しかったんだろうか。


「えぇ......。楽しかったわ」

ニナが少し不思議そうにキョトンとして、言った。


「2日後......サイラスが育ったころ、また見に行っても......良い?」

ニナが恐る恐る、俺に聞く。


「......」

俺は思わず黙り込んだ。


「カークと一緒に行くから......」

ニナがそう付け足した。


「カークと?カークと一緒に行きたいのか?」

ニナに聞き返す。


「えっ......」

ニナが首をかしげた。

「だってカークと一緒なら、ケガをする心配が無いからディルも安心でしょう?」


「だめだ。もう闇の森には行かないでほしい」

俺は思わず、そんなことを口走った。


「えっ、そんな。

どうして?」

ニナが目を見開く。


「ニナは屋敷で編み物をしたり、お茶を飲んだりして、のんびりしていればいいじゃないか」

俺はベッドから立ち上がると、ニナのそばへ行った。


「編み物......お茶.....」

ニナがつぶやいた。


「私は闇の森で薬草や山菜の採取がしたいの。

二度と、怪我しないように気をつけるから、お願いよ」


「それはダメだ。心配なんだ」

ニナの黒髪にふれた。


「ディルは......私の好きなこと、夢中になれることを取り上げるの?」

ニナが急にそんなことを言ったので、俺はびっくりしてニナの顔を見つめ直した。


「ニナ......?」

「私は、森のなかで作業をするのが好きなんだわ」

ニナはそう言うと目をキラキラとさせた。


「お願い、ディル。

心配なら、カークと一緒に行くから」

ニナが俺の腕にすがりついた。


「ダメだ!

カークと一緒でも、一人でも、闇の森に行くのは許可できない」

「これだけお願いしてるのに?

ひどいわ、ディル......」

ニナが目に涙をため始めた。


「そんなに行きたいなら、今度俺と散歩しよう?

ベルナルドの屋敷にいたときみたいに」

俺はニナに泣かれたくなくて、彼女の頭を優しく撫でる。


だがニナは首を横に振った。

「ディルはいつも、忙しいじゃない......。

それに散歩じゃなくって、私も働きたいのよ」


ニナにしては珍しく、なかなか言うことを聞いてくれなかった。


「採取なんか、使用人にまかせればいいじゃないか」

俺がそう言うと


「......バカ」

ニナが小さな声で言った。


「えっ?」

よく聞こえなくて、俺は聞き返した。


「ディルのバカ!!!」

ニナはそう大きな声で叫ぶと、素早くベッドの毛布に潜り込んだ。


「ニナ......」


ニナが怒っている。

俺たちは初めてのケンカをしたのだ。




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