【ニナ】キスをしてくれない
ディルが消毒薬の入った小瓶を持って、じりじりと私に近づいてきた。
私は、ベッドの上にうずくまったまま、首をふるふると横に振る。
「傷はもう、すっかりふさがったわ。
だから消毒はしなくていいような気がするの」
ここのところ、ディルは私につきっきりで、世話をしてくれていた。
食べ物を食べさせてくれたり、廊下を歩くのにも付き添ってくれたり。
もうすっかり元気なのに。
でも、ディルは私を心配してくれてるんだものね。
そもそも、こんな風に怪我をして熱を出した私が悪いのよ。
消毒のたびにディルに傷だらけの腕や足を見られるのがとても恥ずかしかった。
だから
「消毒はもう大丈夫」
今夜はそう言ってみたのだ。
実際、傷は良くなっていた。
消毒薬もしみなくなっている。
ディルはこちらをジッと見つめたまま......しばらく消毒薬の小瓶を持ったまま動かなかった。
(だめだわ。
今夜も消毒されるのね)
半ばあきらめたところ、ディルが
「......そうだな」
と言って、ふぅとため息を付いた。
「消毒を無理に続けて、また傷が開いても困るし。
医者もほどほどでいいって言ってた」
(よかった)
私はホッとして、ディルの方を見る。
「それじゃあ、寝よう......おやすみ」
ディルはそういうと、ベッドに腰掛けた。
そして、私に背中を向けて、ごろりと横になる。
「もう寝るの......」
「寝るよ。ランプの明かりを消してくれても、いいから」
ディルが背中を向けたまま、そう言う。
「うん......」
私はベッドにうずくまったまま、ディルの背中をじっと見つめ続けた。
(最近、キスしてくれない。
やっぱりディルは怒ってるんだわ......
私が、無理をして熱を出した。
だから、ディルはヴェッセルの街へ行って、仕事をすることも出来ない。
私は、彼の足を引っ張ってばかり)
ウジウジとそんなことを考えていると、ディルが体をひねって、こちらを向いた。
「どうした?気分悪い?」
寝ころんだまま、眉を寄せ心配そうに私を見上げる。
(いけない、また心配させてしまう)
あわてて笑顔を作ると
「ううん、眠れないだけ」
と呟いた。
そしてモゾモゾと毛布にもぐり込んだ。
ディルの言うことをしっかり聞いて、彼に心配させないようにしないと。
きっとそうすれば、彼はまたキスして、抱きしめてくれるようになるわ。
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