【ジョアンナ】台無しに・【ディル】そんなのどうでもいい
【ジョアンナ】
私とディルさまは、足を棒にして歩き回り、大勢の商人と交渉した。
そしてようやく、サイラスを最高値で買い取ってくれる商人を見つけた。
それなのに......。
あの女は、それを邪魔した......!
サイラスを勝手に採取して、ダメにしたのだ。
最初はあのバカ女が、あたしへの嫌がらせでやったのかと思ったわ。
でもバカ女にそんな策略があるはずもなく......。
単純に「役に立とう」として余計なことを、しただけだった。
ニナは悪意がないただのバカ。
だから、余計に始末が悪い。
ディルさまは、そんなニナの行動に呆れていたわ。
そりゃそうよね。
誇り高き火の魔法使いなのに、頭を下げて商人と交渉したのよ。
それを台無しにされたのだからねえ。
これでディルさまは完全に、ニナのことを見放すはずよ。
そして、商売のパートナーとしても優秀な私を選ぶはず......。
バカ女は何を思ったのか、サイラスを加工して佃煮のビン詰めをつくった。
また余計なことをしたってわけ。
そんなもの、売れるわけ無いのに......。
そう思っていたんだけど。
どうして!?
悔しすぎる!!
思わぬ高値で売れたのよ。
転んでもタダでは起きない。
図々しいバカ女。
ますます腹ただしいわ!
そんなバカ女が、今度は熱を出して気を失った。
どこまでディルさまとあたしの足を引っ張ってくれるんだろう。
ディルさまは、オロオロしてる。
全く、ただの風邪じゃないの?
一晩、働いたくらいで倒れるなんて、軟弱過ぎる......。
やっぱり金持ちで甘やかされて育ってきた証拠ね。
こんな女......道端に捨てておきたいくらい。
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【ディル】
「お風邪でしょうか。
急いで、お屋敷に戻りましょう」
ジョアンナがニナの火照った顔をみて、そう言った。
「そうだな。
医者も呼ばなくては......」
なんとか、屋敷に到着して、ニナをベッドに寝かせる。
「う......ん......ディル、ディル」
ニナが俺を呼んだ。
手を伸ばして、俺のことを探している。
「ここにいる」
ニナの手を慌てて握った。
(手の平も燃えるように熱い......)
病で亡くなってしまった商人の奥さんのことを思い出す。
つい先日まで元気に笑っていたのに、あっけなく病で死んだと聞かされた。
長寿の魔法使いだって、病に冒されれば無事ではすまないだろう。
もしもニナが逝ってしまったら......。
彼女の手を自分の頬に押し付けた。
「ニナ......。
俺はバカなこと考えていた。
ニナが、俺を嫌って......それで身体を許してくれないんじゃないかって。
でもそんなのどうでもいい。
そんなこと......どうでもいいんだ。
元気で俺のそばで笑っていてくれれば......
ニナが元気でいてくれれば、そんなこと、どうだってよかったのに」
「......ディル......?」
ニナが薄っすらと目を開いて俺の目を見つめた。
コンコン!
ノックの音。
「ディルさま、お医者様が来てくださいました」
ようやく医者が来てくれたのだった。




