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【ニナ】役に立ちたい


「ディル、見て。

屋敷の裏側に、こんなお花が咲いていたの」


きれいなお花を見つけて嬉しくなった私は、ディルの目の前にお花の束を差し出した。

花びらの中心部から外側にいくほど色が薄くなっている可愛らしいお花だった。


ディルはその花をチラッとだけみると

「......きれいだな」

とひとこと、低い声で言う。

私とは目を合わせようとしなかった。


「ディル、身体の具合でも悪いの?」

ディルの元気がない様子に心配になった。

彼の腕に触れる。


「そんなことない。元気だよ。

ちょっとヴェッセルに行ってくる」

ディルは、腕に触れた私の手をそっと外すとそう言った。


「またヴェッセルに?何をしに行くの?」


最近ディルは、ヴェッセルに毎日のように足を運んでいる。

私は屋敷に一人残されることが多くて寂しかった。


「泉の側に生えている山菜......あれが柔らかくて美味いと評判なんだ。

薬草とは別に、買い取りたいという商人がいて......値段の交渉をしてくる」


「......そう.....なのね」


商人との取引......値段の交渉......ディルは私には分からないことばかり言っている。


お金ならいっぱいあるのに。

どうしてディルはそんなに必死に働くのかしら。

私を放っておいて、お金稼ぎに夢中になっているんだわ......。


「ニナ、私もディルさまとヴェッセルに行って参ります」

ディルの後ろに立っていたジョアンナがそう言った。


「えぇっ、ジョアンナも行っちゃうの?」

私はびっくりした。


「そうなんだ。

ジョアンナは街のことをよく知っている。

ヴェッセルには、欲深く嘘つきな商人が多い。

ジョアンナは、そういう商人が誰なのか知っているので、俺に助言してくれるそうだ」

ディルはジョアンナを見て嬉しそうに、うなずいた。


「そう......わかったわ。

私はお留守番ね......」


私は、ディルに羽織らせてあげようと、壁にかかっているマントに手を伸ばした。


でも、ジョアンナが先に、「サッ」とマントを壁から取った。

そして、ディルの肩に、マントを掛けてあげている。


(私がやろうとしたのに......)


ディルとジョアンナは仲良さそうに、ニコニコと笑い合いながら、廊下を歩いていった。


(ジョアンナはディルと対等にお話ができている。

それなのに、私と言えば、キレイなお花を見つけただとか......クッキーが美味しかっただとか......

子どもみたいなことしか話せない......)


なにか......私もディルのお仕事の役に立ちたいわ。


そうだわ。


「泉の側に生えている山菜......あれが柔らかくて美味いと評判なんだ」

ディルはさっき、そう言っていた。


街で山菜を売るのよね。

だったら、私が山菜を集めておこう!

泉なら屋敷から歩いてすぐのところだし、なんの危険もないわ。


きっとディルは喜ぶ。

「ニナ!山菜を集めておいてくれたなんて、気が利くじゃないか」

なんて言って褒めてくれるかもしれない。


ディルの喜ぶ顔が見たい!


私は、カゴと植物を切り取るハサミを手に、屋敷の裏口からそっと、外に出た。




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