【レン】ディルとの対決
人間の若造どもに好き放題殴られた。
だがヤツラは、ディルの言葉に尻込みしたのか、それ以上、俺に手を出してこなくなった。
その夜、俺は小屋のど真ん中で大の字になって、眠った。
人間など怖くはない。
こいつらは「魔法使い」という異質な存在に慣れていない。
俺のことを怖がっているのは明らかだった。
恐怖を感じると人間はときに暴力に走る。
自分たちとは違う異質な存在に対し、力でねじ伏せることで安心しようとするのだ。
殴られた傷は一晩中傷んだ。
だがなんとか眠ることはできた。
翌朝。
まだ、陽も登らないうちにたたき起こされる。
「屋敷のまわりを5周走れ!!
全力疾走だ」
隊長のシュウが怒鳴る。
シュウは、俺の殴られた顔をじっと見たが、何も言わなかった。
兵士同士のケンカなど、よくあることなのだろう。
固い床で寝たことや殴られ続けて痛む傷。
寝不足。
悪条件が重なったが、連中にナメられるわけにはいかない。
魔力は奪われたとはいえ、百戦錬磨の火の魔法使いの根性は俺の中に残っている。
屋敷の周りは1周たぶん1キロほどか。
俺は最後尾から様子を見て走り始めたが、じょじょに順位を上げていった。
(こいつら、遅いな)
残り2周で、先頭集団に入る。
先頭を走ってるのは、輝く金髪の頭。
どうやら、ディルのようだった。
ラスト1周。
俺とディルの一騎打ちになった。
ほぼ二人とも全力疾走。
ディルのあらい息づかいが聞こえててくる。
突然、ヤツは俺のことをひじで小突いた。
俺は仕返しに、やつの前に足を出して転ばせようとする。
しかしヤツは、俺の差し出した足を軽く飛び越えて避けやがった。
......はぁっ、はぁっ。
くそっ。なかなかしぶといヤツだ。
結局ディルと俺は、同時にゴールにたどりついた。
ゼイゼイと息を切らす俺とディルを見て、シュウが呆れたような顔をしていた。
「全力で走りやがって。
この後の訓練に響いても知らんぞ」
「......お前、やるな......。
魔法使いなんて、魔法に頼ってばかりで生っちょろいヤツなのかと思ってたけど」
ディルが、はぁはぁと言いながら俺のほうを見た。
「魔力など使わずとも、人間に負けることはない。
俺はあと5周だって走れるぞ」
ディルに向かってそう言ってやった。
実際、俺は底なしの体力と運動神経の持ち主だった。
三日くらいなら寝なくても動き回れるし、反射神経にも自信がある。
「次の訓練では勝つからな」
「そこ!しゃべるな」
先輩兵士からするどい注意が飛ぶ。
俺たちは無言で次の訓練へと向かった。
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「はじめっ」
隊長の合図で、一対一の戦いが始まる。
武器は木刀一本のみ。
急所を狙っても良いし、何をしても良い。
反則は無い。
「相変わらずディルは強いな。
勝てるやつがいない」
さきほどから、金髪のディルが戦いに勝ち続けていた。
挑戦者をつぎつぎと倒していく。
「あいつは、幹部候補だな」
そんな声が聞こえる。
ディルと戦っていた相手が木刀を奪われ、地面に引き倒される。
ディルはそいつに馬乗りになると、のど元に木刀を突き付けた。
「勝負あり」
シュウが手を上げる。
「次は......誰だ。
ディルに挑戦するものは?」
俺は無言で立ち上がった。
「レンか」
シュウがうなずく。
「もちろん魔法は禁止だぞ」
「分かっている」
「火の魔法使いをやっつけろ」
「くそ野郎をやっちまえー!!」
周囲からヤジが飛んだ。
 




