【ニナ】しきたりを守る
ジョアンナとたくさん喋って、私はすっかり気分を良くしていた。
彼女と出会ったときは、なんとなく仲良くなれそうにないかも......なんて思ったけど。
そんなことないわ!
ジョアンナと話すのは、とても楽しかった。
それにしても。
「裸を見せたらオシマイです。離婚することになるかもしれません」
あの言葉。
そんなの全然知らなかった。
そんな......しきたりがあるなんて。
そうだわ。
普通は母親が教えてくれるものなんだろう。
私の母は、幼い頃に亡くなってしまったから.....だから、教わることが出来なかったんだわ。
でもジョアンナのお陰で、知ることができてよかった。
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早速その夜、ピンチがやって来た。
ディルがいつになく激しくキスをしてきた。
彼は寝室に入ってくるなり、私を抱きしめた。
彼に強く抱きしめられて、身動きができないほどだった。
「ディル、苦しいわ」
彼の胸に頬を押し付けて抗議した。
でもディルは構わず、私のおでこやまぶたにキスをする。
「どうしたの?」
「理由がないと、妻にキスしちゃダメなのか」
ディルは、そう言うと私の目を見つめる。
「そんなこと無いけど、なんだかいつもと違うわ」
「......ヴェッセルの街の......いつも薬草を買い取ってくれる商人がいるんだけど」
ディルは私から目をそらすと、遠くを見た。
「その商人の奥さんが、病で亡くなったんだって言うんだ。
ついこないだまで、夫婦で仲良く店を切り盛りしていたのに」
「そうなのね」
ディルはショックを受けているんだわ。
可哀想に。
背伸びしてディルの髪を優しく撫でた。
「心配要らないわ、私の身体は丈夫なの。
風邪もめったに引かないし.......あっ」
ディルがキスをして私の口をふさいだ。
彼の舌が私の口の中をさぐる。
「んっ......ディル......なんだか」
彼がようやく唇を離してくれた。
「ニナ......。愛してる」
ぎゅっと抱きしめられ、首筋や耳元にキスされる。
「ディル、なんだか立っていられない。
ベッドまで運んで」
なぜだか足がカクカクして、立っていられなかった。
彼はうなずくと、私を抱き上げる。
いつものようにベッドにそっと降ろされた。
「ニナ.....」
彼はベッドの上で、馬乗りになって私の瞳をのぞき込む。
私は彼の方へと両手を伸ばした。
「心配しないで。ディル」
ディルは私に覆いかぶさり、私の手が彼の両頬にふれた。
また激しくキスをする。
でもそこで、彼が私の夜着を脱がせようとしているのに気がついた。
「だめよ!!」
私は驚いて、彼の抱擁から逃れた。
そして上半身を起こし、慌ててはだけた夜着をなおした。
「どうしてだめ?」
ディルは首を傾げて私を見ている。
「だめなのよ......?ディルは知らないの?」
私はベッドの端っこまで後退した。
「ニナは俺のこと......好きじゃない?」
「好きよ。愛してる」
「......だったら、どうして嫌がるんだ」
ディルはそう言って、ベッドの隅っこに逃げた私に近づこうとする。
私はさらに隅っこに逃げて、身体を小さくした。
「嫌に決まってるでしょう。
しきたりを守らないと離婚になるわ」
「えっ。しきたり?離婚?なにを言ってる?」
ディルは目を見開いて、驚いている。
ディルは男の人だから、しきたりについて知らないんだわ。
「裸はダメなのよ。しきたりなの」
私はディルにきちんと説明した。
「......分からない。
怖いのかもしれないけど、大丈夫だから」
ディルはそう言うと、私の方へ両手を広げた。
こっちへおいで......と言うように。
でも私は首を横にふると言った。
「もう寝ないといけないわ」
毛布を手繰り寄せてその中に潜り込む。
ドキドキと心臓が高鳴っていた。
危ないところだった。




