【アリッサ】行かないで欲しい
窓から朝日が差し込み、レンの顔を照らしている。
あたしは、彼の寝顔をながめていた。
ふふふ、可愛い寝顔。
レンは眠っていると、なんだか幼く見えるわ.......。
「......ん」
レンが小さく唸って眉をしかめたあと、ゆっくりと目を開いた。
あたしと彼の目が合う。
「おはよう」
「うん......おはよう」
あたしは、なんとなく気恥ずかしくなって彼から目をそらす。
レンはたくさん愛してくれた。
まだ彼の手の感覚が身体のあちこちに残っている。
あたしたちは裸のまま抱き合って......いつの間にか眠っていた。
(......まだ裸のままだわ。
彼もあたしも何も身に着けてない)
「アリッサ」
レンが眩しそうに目を細めながら、あたしの髪に触れる。
そして抱き寄せると、身体を密着させた。
「どうしよう。
俺......王都に行きたくなくなってきた」
レンはあたしの頭頂部に鼻を押し付けて息を深く吸うと言った。
「行かないで......。行かないで欲しい」
彼の身体に腕と足を巻き付けた。
「アリッサのせいだぞ。アリッサが可愛すぎるから」
レンはそう言うと、笑いながらあたしのおでこにキスをする。
「レンに抱かれたら......そしたら、離れ離れになる覚悟ができると思ったのに。
違ったわ。余計に寂しくなるだけだった」
あたしも彼の頬にキスをした。
「そんなこと言われたら、出発できなくなる」
レンの身体のぬくもりが心地よかった。
彼と離れるのが本当につらい。
リックがもしもいなければ、あたしは迷わずレンと一緒に王都へ行くことにしただろう。
あの子を連れて、王都へ旅立つことも考えたけど......。
長旅は、子どもの身体に間違いなく負担をかける。
それとも、リックの世話を乳母に任せて、屋敷においていく?
無理だわ.......。そんなこと、とてもできない。
生まれたばかりのリックを一人ぼっちになんて、できない。
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「こうしていたら、またアリッサが欲しくなってしまう。
俺はそろそろ行かないと.......」
「レン......あたしは、あなたが欲しいわ」
朝の光が入る明るい室内なので、昨夜よりお互いの身体がよく見えた。
彼があたしの身体や表情の変化を見ているのを感じた。
レンの身体は、古傷だらけで......でも彫刻みたいに美しかった。
あたしたちはまた愛し合ったのだった。
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「それじゃ、行ってくるよ。
王都の土産を楽しみにしてて」
レンが笑いながら振り返る。
あたしは黙ってうなずいた。
レンのことを屋敷の正門で見送った。
彼を乗せた馬車が見えなくなるまで、そこに立ち尽くしていた。
(神様......どうかレンをお護りください。無事に戻ってきますように)
今日からは毎日、祈ることになりそうだ。
「向こうについたら、手紙を書く」
レンはそう言っていた。
(さぁ、リックのお世話をしましょう。
そろそろお腹をすかせているかもしれないわ)
リックを預けているマーヤの部屋へと向かった。




