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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
子どもの誕生とレンの出発
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【アリッサ】赤ちゃんの名前


腰がものすごく痛いし、背中も、肩も。

もうどこが痛いのかわからないほど、体中が痛かった。

出産は地獄の苦しみだったし、産んだあとだって体中がまだ痛い。


でも......生まれてきた赤ちゃんをみて、嬉しさで胸がいっぱいになった。

ずっとお腹の中にいたのは、あなただったのね......やっと会えたわ。


あたしの腕の中でぐっすり眠っている小さな我が子をみる。

手も足も、何もかもが小さい。


ほんとに、可愛い。

なんて可愛いのかしら。


赤ちゃんを自分のお腹の上に乗せた。

少し重たくて、そしてじんわりと温かい。


こんな幸せって無いわ。


あたしは赤ちゃんをお腹のうえに乗せたまま、ウトウトと眠り込んだ。

窓から差し込む日差しが暖かかった。


----------------------------------


「う......ん」

ふと目を覚ますと、あたしの顔をのぞきこむレンの顔が見えた。


「レン......いたの?」


あわてて、口の周りを手でぬぐった。

だらしない寝顔をみられてしまった気がする。

恥ずかしい。

でも......彼にはもう、恥ずかしいところをたくさん見られている。

出産で、我を忘れて痛みに泣き叫ぶところもみられてしまった。


レンには恥ずかしい姿をたくさん見せているのに.......。

それなのに、彼とまだ、肌を重ねたことがないっていうのが、なんだかおかしい。


あたしはお腹の上ですやすやと眠っている赤ちゃんを抱き上げると、上半身を起こした。


「横になっていたほうが良いんじゃないか」

レンが慌てて、あたしの肩を支える。

「ううん。

たまに起き上がったほうが、腰が楽なのよ」

赤ちゃんが小さな声で泣き出した。

あたしは、あわてて片方の乳房を出すと、赤ちゃんに授乳した。


(あっ......。

レンが見てるのに。

でももう、恥ずかしいという感情も無くなってきている気がする)

レンもあたしが、胸をあらわにして授乳しはじめても、とくに慌てることもなかった。


授乳が終わると背中を叩いてげっぷをさせる。

乳母から教わったやり方だった。


乳を飲んだ赤ちゃんは、またウトウトと眠りだした。


「すごくよく寝るの。だから楽だわ」

あたしはベッドサイドの椅子に座るレンに話しかけた。


「乳をやるなら、アリッサもたくさん食べないとダメだよ」

レンは心配そうにあたしの顔をみている。


「髪に葉っぱがついているわ」

レンの前髪に小さな木の葉がついていた。

とってあげた。


「外にいたのね?」

「港に行ってた。あらたな交易がはじまるのでその承認のために......」

レンは目を細めて笑った。


「レン......ほんとにありがとう。

父も母も、レンが執務を取り仕切ってくれるから、いつ引退しても大丈夫だって言ってたわ」

「そんなこと......」

レンは照れたように笑った。


「ねえ......赤ちゃんの名前......決めないと」

あたしは、小さな声でレンに言った。


「......名前......」

レンの表情が暗くなる。

「そうだな。いつまでも名無しじゃ可哀想だよな......。

パトリックに考えてもらうのはどうだろう」


「お父様に?」

今度はあたしの表情が暗くなる。

レンは、子どもの名前を考えてくれないんだわ......。

考えたくもないのかもしれない。


「そろそろ執務に戻らないと」

レンが椅子から立ち上がる。


部屋に来てから一度も、レンが赤ちゃんに視線を送らないのに気づいていた。

もちろん、抱っこもしてくれない。


「レン......」

あたしは、立ち去ろうとするレンの腕を引き止めた。


「キスして」

そう言って、彼の方へ顔を向ける。


レンは身をかがめると、あたしの頬に手をおき、くちびるを重ねた。

そっとくちびるを離すと、頭を優しく撫でてくれる。


「アリッサ、愛してる」

真剣な目でそう言ってくれた。


彼はあたしを愛してくれている。

それは間違いのない事実。


それだけで、あたしは幸せに思わなければいけないのに。

どうして、いつも「ないものねだり」してしまうんだろう。


彼に「赤ちゃん」のことも愛して欲しい......あたしはそう思っていた。


彼の子どもではないのに。

しかも、この子は彼の敵の子ども.......。

この子の父親の首を、レンは切り落とした。


それなのに、「愛して欲しい」だなんて......。

どうかしてるって分かってる。

それでも、彼にこの子のことを......愛してほしいと願ってしまう自分がいた。








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