【レン】大蛇の子ども
痛みで泣き叫ぶアリッサの手を握り、必死で励まし続けた。
アリッサは、脂汗をかき苦しんでいた。
「俺がずっとついてる」
痛みは波のように繰り返しやってくるようで、痛みと痛みのあいだには小休止があった。
「レン......ごめんなさい。あなたの子どもじゃないのに」
痛みと痛みの間の小休止で......アリッサは俺の手を握りしめながらそう言った。
アリッサの「あなたの子どもじゃない」という言葉に、侍女も産婆もギョッとしていたが、みな聞こえないふりをしてくれた。
「なに言ってる」
俺は首を横に振ると、アリッサの額の汗をふいた。
「水を飲む?」
「ううん、いらないわ。
頭を撫でて欲しい......いつもみたいに」
アリッサの艷やかな髪を撫でる。
汗でしっとりと濡れていた。
「......っ」
アリッサが顔をしかめた。
また痛みがやってきたのだ。
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翌日の昼。
「ギャアア!!」
赤ん坊の泣き声が部屋に響いた。
アリッサの出産が始まって15時間後のことだった。
......長かった。
長すぎた......。
俺は安堵のあまり、膝の力が抜けた。
「おめでとうございます。
......お、男の赤ちゃんです。
ですが......」
産婆の様子がおかしい。
俺は赤ん坊の様子をみた。
「背中にウロコが......蛇のような......」
赤ん坊の背中には、確かに銀色のウロコがみっしりと並んでいた。
(大蛇フィリップの子どもだからか......)
赤ん坊の背中をみて、ヤツの子どもであることを、俺は改めて実感した。
「オギャああ」
赤ん坊が大きな声で泣いた。
「大丈夫だ。
手足の指の数もきちんとある、目が2つに鼻と口はひとつずつだ。間違いない。
健康で、元気な子どもだ!」
俺は産婆の肩を叩いた。
産婆は
「しかしこのような赤ん坊は見たことがありません」
と不安そうにしている。
「いいから!気にするな」
と俺はごまかした。
赤ん坊は、すぐさま毛布でくるまれた。
「アリッサ、無事に生まれたぞ!!」
「あぁ......レン.......」
アリッサは朦朧とした表情で俺を見た。
彼女は疲れ切っていた。
「アリッサは大丈夫なのか!?」
赤ん坊にかかりきりになっている産婆にむかって、たずねた。
「たくさん出血しました。
ここから、1ヶ月ほどは油断できません。
発熱があれば危険な状態になります。
身体を休める必要があるでしょう」
「分かった」
俺はうなずいた。
「赤ちゃん......赤ちゃんを抱かせて」
アリッサが震える手を伸ばした。
産婆が赤ん坊をアリッサにそっと渡した。
アリッサは嬉しそうに涙を流しながら、子どもを眺めていた。
アリッサ......すごく幸せそうだ。
その赤ん坊は......俺の子どもじゃない。
でも、彼女が命がけで産んだ子ども.......。
彼女が愛するなら、俺もその子を愛したい。
でも......愛することができるだろうか。
すやすやと幸せそうに眠る赤ん坊の寝顔を眺めた。




