【ニナ】
【ニナ】
ゴーレムに握りしめられて、苦しむディルの顔を見た。
彼は口から血を吐き、目が大きく見開かれている。
ディル!!!
あぁどうしよう。
ディルが死んでしまう!!
ディルを失いたくない!!
そう思ったら、自分の中の「なにか」が弾け飛んだ。
お母さんが死んで以来......自分のなかで封印していた何かが、壊れたのだ。
「ニナ、可愛いニナ。
お母さんとお散歩に行きましょうか?」
お母さんはそういうと、温かい手をそっと差し伸べてくれる。
「パンケーキを焼いたわよ。
おやつにしましょう?」
いい匂いのするキッチンで微笑むお母さん。
優しかったお母さん。
お母さんは私のせいで死んだの。
自分は、母親を死なせた悪い子ども。
一生涯......母を死なせた罪を背負って、日陰の道を生きるべき。
私はダメな子だから。
勉強もできない。
頭も悪い。
もちろん魔法も使えない。
ダメな子として、ずっと生きるの。
自分のことをそんなふうに考えて。
力を押し込めて......閉じ込めて生きてきた。
でも!!!
目の前で愛する人が苦しんでいる。
私は愛する人を失いたくない。
そう思ったら、勝手に体が動いていた。
そこからは、あまり記憶が無い。
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私は無我夢中で炎をはなって.....。
そして、誘拐犯の男を焼き殺した。
熱さと苦しみでのたうちまわる男を見た。
けっして気持ちの良いものではなかった。
(この男が、早く苦しみから解放されますように)
思わずそう祈った。
ゴゴゴゴゴ.......
ゴーレムのほうから大きな音がして、びっくりしてそちらに視線を向ける。
ゴーレムの体が、溶けていく!!
土に還っていくわ。
ディルの言うとおりだった!!
「ニナ!!男を焼き殺すんだ!!
それですべて終わる」
彼は必死にそう伝えてくれた。
やっぱりディルは何でも知っている。
私の大切な人。
ゴーレムの体はボタボタと崩れ落ち、形がなくなっていく。
私の放った炎もシュウシュウという音を立てて消えていった。
「ディル!!」
私は思わず叫んだ。
ゴーレムが握りしめていた、ディルの体が地面に落ちてしまったのだ。
ディルの方に駆け寄った。
「ディル!!ディル」
彼はぬかるみのなかに落とされ、気を失っている。
「いやよ......お願い、逝かないで」
彼の傷だらけの頭を持ち上げて、自分の膝の上に乗せた。
ディルは目を覚まさない。
「お願い、ディル。
あぁフェニックス様......お護りください」
泥で汚れた彼の金髪をそっと撫でる。
「う......」
ディルが眉をしかめ、うめき声をあげた。
「ディル!!」
私は嬉しくなって彼の頬を撫でる。
「ニナ......」
彼はゆっくりと目を開けた。
そして私の顔をみあげると笑う。
「すげー炎だった。ニナ、すごいぞ。やったな」
「ディルのおかげ......魔力が使えるようになった」
ディルはまた優しく笑うと、目を閉じた。
「ディル!!嫌よ。目を覚まして」
私は彼に必死で呼びかけた。
そのとき、森の中から人が現れた。
「ニナ!!」
お父様と、お兄ちゃん、それに兵士たちがこちらに向かってきたのだった。
「ディルが怪我をしてるの!!気を失ってしまった」
私はディルの頭を膝に乗せたまま、涙を流した。




