【レン】【ディル】
【レン】
父親はディルを助けに行こうとする俺を引き止めた。
「でも、このままではディルは間違いなく死んでしまう」
俺は父にすがりついた。
大事な友を失いたくない。
それにディルが死んでしまえば当然、妹の命も危険にさらされる。
「......」
父はだまって、白夜の森の中央部に視線を走らせている。
やがて
「そうだな。行くぞ!!」
と言うと、片手をサッと上げて、ほかの仲間たちに前進の合図を送った。
そのとき
バーン!!!
突然、大きな爆発音が響きわたった。
「なんだっ!?」
「炎だ......青い炎が上がっている!」
兵士の一人が森の中央を指さしている。
森の中央部から、メラメラと燃え盛る青い炎が見えた。
「炎が動いている!!」
大きな炎のカタマリが、ゆらりゆらりと動いていた。
「ゴーレムだ!
ゴーレムが青い炎に包まれているんだ」
兵士が口々に叫ぶ。
(青い炎.......。
青い炎は威力が強く、魔力で簡単に発生できるものでは無い。
まさか......)
「父上!!あの青い炎は......まさか」
俺は父親の顔を見てハッとする。
父は......トマス・ウォーカーは炎をじっと見つめていた。
その目からは涙が流れている。
「父上」
「あれは、ニナがおこした炎の魔法だ......。
あの子が......あの子が、ようやく目覚めたのだ」
父は表情を引き締めると、兵士たちに怒鳴った。
「........森の中央へ行くぞ!!
強大な炎の魔力が発せられた。
だが、残念ながらゴーレムは高温でいくら燃やしても死なない......
ゴーレムを倒す方法は、ただひとつ。
ニナは、その方法を知らない」
俺は父親の言葉にだまってうなずくと、剣を抜き全速力で走った。
------------------------------
【ディル】
俺はゴーレムに握りつぶされて、意識を失いそうになっていた。
(う......。ニ......ナ......。ごめんな)
薄れゆく意識の中、地上にニナの姿をみつける。
俺は......彼女の表情をみて驚いた。
彼女のいつもの優しい表情は消えていた。
キッと結ばれた口。
瞳はゴーレムをきつくにらみ付けている。
次の瞬間、ニナは大きく手を振り上げた。
バーン!!!
耳をつんざくような大きな爆発音。
「っ......!!」
真っ青な炎が目の前に広がった。
ゴーレムの身体が燃えている!?
(ニナが?ニナが火の魔法を使ったのか!?炎の色が......青い)
俺は熱風に目を細めながら、燃え盛るゴーレムの身体をぼんやりと見る。
幸い、俺を握りしめる腕までは、炎はのぼってこない。
(だが......ゴーレムは、びくともしない。
炎に焼かれても平気なのか)
身体を炎で包まれ、ゴーレムは少し動揺しているかのように見えた。
だが、俺を落とすこともなく、握りしめる力が緩まることもない。
(くそっ、炎ではこいつは、倒せないんだ)
ふいに、俺の脳裏に幼いころの記憶がよみがえった......。
幼い俺は、ベッドに寝かされている。
俺は祖母の顔を見上げると言った。
「それで......?
おばぁちゃん、ゴーレムはどうなったの」
ディルや。
ゴーレムは剣で刺しても切っても、矢で射抜いても火薬を投げたって、やっつけることはできなかったんだ。
おばあちゃん......それなら、どうやって......
どうやったの?どうやって........。
ふふふ
もう眠いようだね?
つづきは明日、また聞かせてあげるからね
さぁ、寝なさい
だめだよ......おしえて......どうやって倒すんだ?
俺は必死に、ばあちゃんに呼びかけた。
ばぁちゃんは、ベッドに寝ている俺に背を向けた。
部屋から出ていこうとする。
だが、ドアを開けて部屋から出る瞬間,,,,,,,祖母は独り言のように、ポツリとつぶやいた。
俺にはその言葉がハッキリと聞き取れた。
「簡単だよ。
ゴーレムを操っている魔術師を殺したんだ。
.......そうしたら、すべてが終わったんだ」
そうか!!
ゴーレムを操っているやつを殺すのか!!
俺はカッと目を開いた。
そして地上にいるニナに視線をやる。
瞬間......ニナの漆黒の瞳と、俺の瞳が合う。
体中に電気が走るのを感じた。
ニナ......愛してる。
俺は叫んだ。
「ニナ!!男を焼き殺すんだ!!
それですべて終わる」
ニナはハッとして、自分の背後にいるフードの男のほうに振り向く。
男は、ギョッとして後退りした。
「やめろ!!
お前には金貨をいくらでもやる。
俺たち二人で、世界を牛耳ろう。
お前はビジネスパートナーだぞ!?」
フードの男は腰を抜かした。
泥の中を這いずりながら、ニナから必死に遠ざかろうとする。
ニナは、縛られたままの両手を天高くかかげた。
その両手の平には、青白くて小さな炎が生まれている。
「お前は金のために子どもを誘拐した。
それに罪もない青年を殺した。
さらに......私の愛する人を傷つけたお前を許すわけがない!!」
ニナは男の方へ、勢いよくその手を振り下ろす。
青い炎が一直線に男の方へと飛んでいった。
「ぎゃあああああ」
男の叫び声。
男は青い炎に包まれると、その場で熱さから逃れようと、のたうちまわった。
それと同時に、ゴーレムにも変化が生じ始めた。
ゴーレムはピタッと立ち止まると、ガタガタッと膝から崩折れた。
俺を握りしめる握力も弱まる。
フードの男は、動かなくなった。
息絶えたのだろう。
フードの男が動かなくなるのと同時に、ゴーレムの足が......胴体が、土に還っていった。
青い炎もシュウ、シュウという音を立てて消えていく。
ゴーレムの腕や胴体がボタボタと溶け始め、汚染された土壌に吸収されていく。
俺は地面に落とされた。
「ディル!!」
ぼんやりとした意識の中......ニナの叫び声が聞こえた。




