【レン】・【ディル】
【レン】
俺と父は7人の精鋭を率いて、白夜の森周辺部に身を潜めていた。
ディルの援護をするつもりだった。
ゴ......ゴ、ゴゴゴ......
突然の地響きと地面の揺れに、息を呑む。
体勢を立て直し、ディルのいるであろう、森の中央部に視線を走らせる。
森の中央部から、もくもくと湧き上がる土煙が見える。
さらに、巨大な魔物の影がユラユラと揺れているのが遠目に確認できた!
(あの影は.......そんな......まさか)
「父上!
ゴーレムです」
俺は、近くの茂みに隠れている父親に声を掛ける。
白夜の森の中央に、のっそりと現れた巨大な影。
土ぼこりに、ここまで飛んでくる悪臭......。
間違いなくゴーレムが発生している。
(一体、なぜ......。
ニナをさらったヤツらは、魔術師だったのか?)
父が落ち着いた声で答えた。
「ゴーレムだ。
汚れた土壌から何者かの呪術により発生している」
父は目を細めて森の中央部をにらみ付けている。
「ゴーレム相手に生き残った人間など、いません。
ディルを助けに行かないと」
俺は、茂みから飛び出そうとした。
しかし父親が素早く俺を静止する。
「レン、待つんだ。
我々が攻め込めば、敵が自暴自棄になって、ニナを殺してしまうかもしれない」
「でも......!!ディルが......」
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【ディル】
まさか、ゴーレムと戦うことになろうとは。
というか、戦うというより......俺はさっきから逃げまどっているだけだが。
ゴーレムが俺にむけて、パンチを繰り出す。
俺は思い切りダッシュして、それを避けた。
はぁっ、はぁっ......
常に動き続けていないと、踏み潰されてしまう。
心臓が爆発しそうだ。
ゴーレム......。
そう言えば、幼いころ......ばあちゃんから聞かされたことがあった。
寝る前の、おとぎ話みたいなもんだったんだが。
ばぁちゃんは、言ってた。
ディル、ゴーレムの話をしようね。
むかし、むかし......
魔術師が生み出したゴーレムとの戦いが起きたことがあった。
ゴーレムは飲まず食わずで永遠に動き続けることができる怪物だよ。
3000人の兵士を持ってしても、ゴーレムは倒せず、血みどろの戦いが500日も続いたんだ。
そこで話が途切れる。
あれ?
けっきょく......どうやってゴーレムを倒したんだ?
ばぁちゃんは、なんて言ってた?
俺はいつも結末を聞く前に、寝ちまってたから。
はぁっ、はぁっ。
息を整えるまもなく、ゴーレムの次の攻撃が来る。
月明かりがゴーレムの巨大な足に、さえぎられ、周囲に暗闇が落ちる。
自分の頭上.......すぐ真上に、ゴーレムの巨大な足が覆いかぶさってくる。
まずい!
慌てて俺はまた走り出した。
「ハハハ......!!あいつの体力が尽きるのも時間の問題だな」
フードの男が大きな声で笑っているのが聞こえる。
「いずれ力尽きて、ゴーレムに潰される。
そうなったら、残りの金貨を奪えばいい。
俺は、魔力と大金を手に入れるのだ」
ニナは猿ぐつわを、縛られた手でどうにか緩めると叫んだ。
「やめて!!お願い。
なんでも言うことを聞くからディルを殺さないで!!」
ニナの叫び声が聞こえる。
ニナ......。
ニナ。
最初は、レンに似てるから......だから「可愛いな」って思った。
きらきら光る大きな目に、サラサラの長い黒髪。
真っ白な肌......。
俺は文字も読めないし、財産も無い。
あるのは丈夫な体と、腕っぷしだけ。
そんな俺を、ニナは「大好き」「とっても好き」と何度も言ってくれて。
「ディルは何でも知ってるのね。
ずっとディルと一緒にいたい」
ニナは俺に自信を与えてくれて、人に愛される喜びを教えてくれた。
ニナに
「大好き」
って言われると認められたみたいで、すごく嬉しかった。
俺はニナのためなら死んでもいい。
ダッシュを何度も繰り返したせいで、息が上がり心臓がバクバクと跳ね上がる。
「ディル!!」
ニナの叫び声。
俺は、ぬかるみに足を取られて、うっかり転んでしまった。
ゴーレムはその瞬間を見逃さなかった。
俺のハマったぬかるみにゴーレムの巨大な手が近づく。
俺はゴーレムの大きな手につかまれて、ヤツに持ち上げられてしまった。
「くっ!!離せ」
おそろしい握力で握りつぶされる。
骨がばらばらになってしまう。
息ができない。
「やめて!!!」
ニナが叫ぶ。
ゴーレムは、握りしめた俺の姿を自分の目の前に持ってきてマジマジと見つめている。
「くそっ!!」
俺は、腰に下げたナイフを隙間からなんとか抜き取る。
「くらえっ」
ナイフをゴーレムの目玉に勢いよく投げつけた!!
ゴーレムは、びっくりしたような顔をして、一方の手で目玉を抑えた。
やつの片目には、俺のナイフが見事に刺さっている。
(やったか!?ヤツにダメージを与えた?)
だが、ゴーレムはナイフを指の先でゆっくりと抜き取ると、地面にぽいっと落とした。
(なんのダメージも受けていない!!)
俺を握りしめる、ヤツの握力が増す。
「くっ!!!」
体中の骨と筋肉が悲鳴を上げる。
目玉が飛び出すのを感じる。
俺はもう終わりだ。
ゴーレムに粉々にされて死ぬのだ。
レン......
それにトマス。
頼む、ニナを、ニナを救い出してくれ。




