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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
アリッサのお腹の子どもと火の魔法の継承
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【ディル】


【ディル】


「ニナ様は隊長のお好きなものは何か......?って俺たちに聞いたんです。

それで、隊長はグリーンポイントのミートローフがお好きだとお伝えしたんです」

ニナと昼間、話したという若い兵士は涙目で俺に言った。


俺はトマスのほうをみると

「ニナは、一人で店に行ったかもしれない。

グリーンポイントはカノンの南端にあります」

と伝えた。


「ニナが一人で行動するなんて。

そんな......」

トマスは信じられないという面持ちで、目を見開いている。


「手がかりは他にありません。まずはその店に行ってみましょう」



-----------------------------------


ニナはグリーンポイントにいなかった。


「黒髪のご令嬢が来なかったか?」

店主や下働きの者たちに聞いて回ったが、みな首を横に振る。

「着てませんね。

薄汚れた連中しか見かけませんよ」

と言う。


「嘘をついてたら只じゃおかない......」

トマスが低い声で言うと、店員たちはみな、顔を真っ青にした。


「旦那!!とんでもございやせん。嘘なんてついていません」

みんな口々に叫ぶ。


「見ろ!あの男の持つ杖を!

あれは......魔力を持つものの杖......あいつは火の魔法使いだ!!」

「杖の先の印をみたか?

あれほど高位の印を持つ杖は、見たことない」

そんな声が聞こえてきた。


みなトマスを恐れている。

トマスはそんなにすごいヤツだったのか。

田舎育ちで魔法使いについてあまり知識のない俺は、あっけにとられる。


「ニナは、ここにはいないようだ。

街で聞き込みをしよう!」

トマスが俺の肩を叩く。


俺たちはグリーンポイントを後にした。


---------------------------


街でニナを見かけなかったかと、聞いて回ったが、みな首を横に振る。


(くそっ、手がかりがない)

あきらめかけた頃、一人の少年が俺たちのところへ駆け寄ってきた。

「おじさん!これ!」

少年はトマスに紙切れを渡すと、逃げ出そうとする。


「まて、子ども!」

トマスは子どもの手をつかんだ。

「離せよ!!俺は手紙を渡せって言われただけだ」


「なんなんですか」

俺は紙きれをのぞき込んだが、文字が読めずに分からない。


「お前の娘はあずかった。

返してほしくば、人間の兵士に金貨100枚を持たせて、深夜、百夜の森の中央に来ること。

人間の兵士一人だけに金を持って来させることを厳守せよ。

いいか、お前は来てはいけない。

それが守られなければ、お前の娘は殺す」


「くそっ!!

この手紙を渡したのはどんなヤツだ」

トマスは、捕まえている子どもに聞く。

「わかんないよ!ふつうのオジちゃんだった。

杖を持った男に、この手紙を渡せって言われたんだ。

俺はアメ玉をもらったんだよぅ」

手を掴まれた少年は涙をボロボロと流している。


「トマス。この子は何も知らないだろう」

俺はトマスに少年の手を離してやるように頼んだ。

少年は逃げるように去った。


「誘拐だ......ニナ......ニナが誘拐された。なんてことだ」

トマスは真っ青な顔で、肩を震わせている。


「俺の不注意です。

トマス.......白夜の森へは俺が行きます。

必ずニナを取り戻してきます」


トマスは俺がそう言うとうなずいた。


「人間のなかで一番、優秀なのはディル・ブラウン......君だ。

......ニナを必ず連れて帰ってきてくれ」

トマスは俺の肩にしがみついた。


----------------------------------


トマスは急ぎ、屋敷に戻ると金貨100枚を用意した。

「結婚の祝い金として用意しておいてよかった」


まばゆいばかりの金貨を革袋に無造作に詰めていく。


「聞いていいですか」

俺はトマスに話しかける。

「なんだ」

トマスは金貨の枚数を数えながら、俺に答える。


「その......ニナは火の魔法使いですよね。

魔法を使って逃げることは出来ないのでしょうか」


「......」

俺の問いにトマスは黙り込む。

マズイことを聞いたのだろうか......と不安になったとき、トマスが口を開いた。


「ニナは生まれてから一度だけ、魔法を使ったことがある。

だがそれ以来......彼女は魔法を使えなくなってしまった」


「そう......なんですか」


「私の妻は、ニナをかばって亡くなった。

馬車に轢かれそうになったニナを突き飛ばして......ニナをかばって馬車に轢かれてしまったんだ」


「そんな!そうだったんですね」

母親が亡くなったというのはニナから聞いていたが......理由までは聞いていなかった。


「そうなんだ。そのとき幼かったニナは、生まれて初めて火の魔法を使った。

発作的だったのだと思う。

荷馬車を激しい業火で包んだ。

あれほどの業火は私でさえ、生涯見たことがない。

幸い、事故に驚いて人間たちは荷馬車から降りていたから死者は出なかったが」


「それ以来、彼女は魔法を使えなくなった?」

「そうだ。

おそらく精神的なショックからだろうと思う.......。

ニナは無力なのだ。か弱い人間の女となんら変わりはない......」


トマスは金貨を数え終わり、布袋の口を固く締めた。

そして俺に手渡す。


「ディル。お願いだ。

金は失っても構わない。ニナを連れ戻してくれ」




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