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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
アリッサのお腹の子どもと火の魔法の継承
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【レン】愛情


アリッサとの結婚式まであと2か月......。


彼女のお腹はだいぶ目立ってきていた。


アリッサのお腹の子どもは、俺の子どもではなく、神官フィリップの子どもであるという事実......。

これは、世間に生涯隠し通すつもりでいる。


つまりアリッサが生む子どもは、「俺の子ども」として育てるつもりだ。

そのほうが周囲の詮索を受けずに済むし、アリッサや子どもにつらい思いをさせずに済むと思ったのだ。

そのことはアリッサも、アリッサの両親も承知している。


アリッサは最初、戸惑っていた。

「レン......ほんとうにそれでいいの?」

「俺がそうしたいんだ。

もしかしたら、その子が成長して大人になったとき......真実を伝えるかもしれないけど.......」

「レン......」

アリッサは、丸くなったお腹を愛おしそうに撫でた。


俺は、アリッサの両親であるパトリック卿と妻のメアリにも「自分の子として育てたい」と伝えた。

すると二人は涙を流して俺に頭を下げた。

「ありがとう」と二人は俺に礼を言うのだ。


そんな二人をみて、俺は焦った。


「そもそも、俺がアリッサをもっと早く救い出していれば、彼女がフィリップの子どもを身ごもることもなかったのです」

そう言って、俺は彼女の両親に謝罪した。


生まれてくる子どもに対して、否定的なことは言いたくなかった。

だが、どうしても......「あと少しでもアリッサを早く救い出せていれば......」

という後悔の念が浮かんできてしまう。


生まれた赤ん坊の顔を見れば、俺にもアリッサのように子どもに対する愛情が生まれるのだろうか。


------------------------


正直、父親になるという自覚はまだ持てない。

だが、覚悟だけはしていた。


生まれてくる子どもは、純粋な人間ではないだろう。

どのような「力」を持った子どもが生まれるのか......俺にはわからない。


だが愛情を持って接すれば、きっといい子に育つはず。

俺はそう思っていた。


------------------------------


アリッサは、肩や腰が痛むようだった。

その日も、俺は彼女の肩をマッサージしていた。


「ここが痛い?」

「ううん、もうちょっと下よ......」


彼女の部屋のソファで、アリッサのうなじを揉んでいた。

彼女の白くて細い首に思わずキスしたくなるのをこらえた。


俺は彼女の体調がとにかく心配だった。

なにしろお腹の中にいるのは、普通の人間ではない。

彼女にどのような負担があるのか......医師に診てもらったが、未知数だった。


通常の出産でさえ、命を落とす女性は実際、多い。

産んだから安心というわけでもなく、産んだあとしばらくして亡くなることだってある。


考えるとめちゃくちゃ不安になる。

だが俺が不安に思うと、アリッサも不安になってしまう。

俺はつとめて明るくふるまった。


「アリッサ、俺がエルフの王と出会った時の話をしようか?」


彼女の気を紛らわせたくて、俺が言うと、アリッサは


「エルフの王と、一晩中ポーカーをしたっていう話でしょう?

前にも聞いたわ」

と冷たい声で言う。


「そっか。前に話したな......。

俺は100年も生きてきたのに、あまり語ることがなくて困る」


「レン......無理にお話してくれなくてもいいのよ。

あなたが黙って側にいてくれるだけで、あたしは幸せなの」

アリッサはそういうと、俺の首に腕をからませた。


マッサージのあとはいつもこうだった。

アリッサは俺に甘えたがる。

俺は彼女の体が心配で、なるべく触らないようにする。

アリッサは寂しがる。


そんなことの繰り返しだった。

「レン......」

彼女は目をつぶると、俺のほうに顔を向ける。

キスの催促だった。


彼女の頬に触れ、そっとくちびるにキスをする。

柔らかくて、弾力のあるアリッサのくちびる。


唇を彼女から離そうとすると、アリッサは腕をからませて抱きついてくる。

「レン......もっとして欲しい」

「でも......アリッサの身体が心配だ」


アリッサは俺に抱きついたまま、急にフフフと笑った。


「そう言えば、レンと一緒にお風呂に入ったことがあるのよね」

「えっ!?風呂!?ないだろ、そんなの......」


俺がそう言うと、アリッサは目を丸くする。


「忘れたの!?タダール城で......あなたはミナの姿だったけど。

レンは、裸のあたしを見たのよ」

アリッサはそういうと頬を赤らめた。


「あのときは、悪かった。ほんとに」


そう言えばそんなこともあった。

薄汚れた俺をみて、アリッサは「一緒にお風呂に入りましょう」などと言いだしたのだ。


「レンだけが、あたしの裸を見たのはズルいと思うの。

今から、一緒にお風呂に入りましょう?」

アリッサがそんなことを言いだした。

「侍女にお風呂の用意をさせるわ。

温かいお湯のなかでマッサージしてほしいの」


「アリッサ......勘弁して欲しい。

そんなことできない」

俺は首をブルブルと横に振った。


「どうして?

ねぇ.......レンはあたしのことが嫌いになったの?」

アリッサは急に目をうるうるさせるとそう言った。


「あたしのお腹がでっぱって、みにくい体になったから。

だから、興味がないのね?」


そんなことを言いだしたのだった。


「そんなことあるわけない」

俺はアリッサの髪を撫で、なるべく優しく抱きしめる。

「だったらどうして?」

アリッサが俺の腕を強くつかんだ。


「心配なんだよ......。不安でたまらない。

無事に出産が終わって落ち着くまで、そんな気になれない」

アリッサは納得していないようだったけど、やがてため息を付くと静かに微笑んだ。


「あたし......はしたないことばかり言ってるわよね。

でもレンのことを深く愛してるから......だから止められないの」


彼女は俺から目をそらすと、恥ずかしそうにそう言った。


.......きっと俺のほうがアリッサを深く愛してる。

彼女を抱きしめてもう一度キスをした。


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