【アリッサ】子ども扱い
あたしは、戸惑うレンを無理やり自分の部屋につれてきた。
肩の傷が心配だったし、ふたりきりで話したかったから。
「ここに座って」
ビロードのソファを指差す。
レンは、だまってうなずくと座った。
「傷を見せて」
「大丈夫なんだけどな」
「早く、傷をみせて」
レンはしぶしぶ、シャツを脱ぐと腕を見せた。
がっしりとした、筋肉のついた腕だった。
あたしは、アルコールを吹きかけながらレンに言った。
「レンも、あのころよりも背が伸びたよね?
肩がすごく、がっしりしてるわ」
5年前、彼は青白い少年だった。
でもいまは、背が高くて立派な騎士といった雰囲気だ。
「魔法使いは寿命が長いから......だから、成長が遅いって聞いたけど」
レンの目をちらっとみる。
「さぁ......。
魔法使いも成長くらいするよ」
レンはあたしから目をそらすと、早口でそう言った。
「レン......。
5年の間、どこに行っていたの?
闇の森にいなかったよね?」
「どうして、俺が闇の森を不在にしていたことを知ってるんだ?」
「両親が、レンのもとへ使いを送ったのよ。
あたしを救ってくれた御礼の品を何度か送ったりしたんだけど、いつもレンは不在だったって」
「......そういうことか」
レンは遠い目をした。
「どこに行っていたの」
「うーん......。旅にでてた」
「それで、急にウチの兵士になりたいって?
どうしてなの?
なにかワケがあるんだよね?」
レンはくすっと笑った。
「なんで笑うの」
あたしは少しムッとして彼の顔を見返す。
「質問ばかりだなって思って」
「だって心配だったの。
会いたかったし」
「俺も会いたかった」
レンは吸い込まれるような漆黒の目であたしをじっと見た。
長い年月、いろいろなものを見てきたであろう、その目で。
なぜだろう。
彼に見つめられると、思わず息が止まってしまう。
「立派なお嬢さまに成長していて、すごく嬉しい」
レンはあたしの頭を優しくなでた。
5年前とおんなじだ。
彼は、あたしを子どものように扱う。
ちゃんと好き嫌いせずに食べているか。
暖かい格好をしてるか。
ぐっすりと夜、眠れているか。
親みたいに......親よりも丁寧に......あたしの面倒を見てくれた。
「花婿候補が来ていたな。
アリッサ......好きな男はいるのか」
レンにそう言われて、ドキッとする。
「ど、どうしてそんなこと聞くの」
「いるのか?どいつだ」
「いない.......。好きな人なんかいないわ」
あたしはため息を付きながら言う。
「そうか。
あの広間にいたヤツラはロクでも無さそうだ。
そうだ。
いい男がいるぞ。
王宮にいる近衛隊長なんだが、ルシアという名前で......。
あっ、だめか。
あいつに出会ったのはもう20年も前だからな。
すでに40歳過ぎてる......」
「レン。あたしは結婚なんかしたくない」
あたしは頬をふくらませてレンを見た。
レンはあたしのふくらんだ頬を、両手でそっと包んだ。
「アリッサが結婚したくないなら、しなくていいと思う。
結婚はしたくなったときにすればいいものだからな」
レンはまた、あたしの頭をやさしくなでた。




