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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
アリッサのお腹の子どもと火の魔法の継承
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【ディル】


(レンがいない!!)


朝、レンの執務室のドアをノックした。

返事がないので無断でレンの寝床をのぞき込むと、ベッドはもぬけの殻だった!


(レンがいない!

まさかもう闇の森に帰った!?)

俺は大慌てで、屋敷の正門へと走った。


レンはアリッサお嬢さまに「闇の森に帰れ」と言われた。

だから、

「近々、ここを発つことになる」

と彼は、俺に言った。


それを聞いたとき、めちゃくちゃショックだった。

レンはベルナルド家のために......いや......アリッサお嬢さまのために力を尽くしたのに。


レンはとにかく元気をなくしていた。

人が変わったように、落ちこんでしまっていた。


「アリッサお嬢さまのことなんか忘れろ。

なんなら、俺がお前の屋敷で一緒に暮らしてやる!」


俺は冗談っぽくそう言った。

でも内心では、結構本気だった。


でもレンはそんな俺の言葉には無反応だった。

ぼんやりとした表情で、目に光がなかった。


レンを幸せにできるのは俺じゃないんだ......。

アリッサお嬢さまなんだ。

今回......俺にはそのことがハッキリと分かった。


彼は自分の命を投げ出してしまうんじゃないか?

そう思うほど、落ち込んでしまっていた。


アリッサお嬢さまは、どうして、レンに「闇の森に帰れ」なんて言ったんだ?

アリッサお嬢さまにレンを取られたくない......そう思っていたけど。


レンは、自分の命より彼女のことを愛してる。

なによりも彼女を大切に思ってる。


俺の気持ちは複雑だったけど。

レンの落ち込む姿は、とにかく見たくなかった。


--------------------------


(いたっ!レンだ......)


屋敷の正門に、彼の姿を見つける。

だが彼のそばに、アリッサお嬢さまがいることにもすぐに気づいた。


遠くなので、二人が何を話しているのかは、俺には聞こえてこない。

木の陰に隠れてしばらく様子を見ていると、レンがアリッサお嬢さまの腕を引っ張るのが見えた。


アリッサお嬢さまは、レンのほうに倒れ込むようにして抱きしめられた。

ふたりはしっかりと抱きしめ合って、そしてお互いの目を見つめ合っている。


くそっ。


レンには幸せになってほしいけど。

でもやっぱりこういうのを見てるのは、ツライな。


二人の間に何があったのかハッキリとは分からない。

だけど、この日.......どうやら二人は結婚することに決めたようだ。


結婚の話はどんどん進んだ。


まず二人の結婚を、パトリックさまと奥方のメアリさまがお認めになった。

レン・ウォーカーは、タダール城とベルナルド領の奪還に大きく寄与した。

だから彼は、アリッサお嬢さまに対して、遜色のない結婚相手だとスンナリと認められた。


近隣の貴族たちも、アリッサお嬢さまの婿候補だった諸侯たちも、みな納得した。

それもそうだろう。

奴らは、神官フィリップに奪われたアリッサお嬢さまを助けに来ようともしなかったのだから。


魔法使いと人間の結婚は、通常......聞いたことがなかった。

だが、何らかの理由で、レン・ウォーカーが火の魔法使いから人間に戻っている.......

このウワサは、すでに人々の知ることとなっていた。


「闇の森の屋敷が心配だな」

レンは幸せそうにしていたけど、ときどきそんなことを言っていた。

ゴブリンや妖精が屋敷を見張っていてくれているらしい。

でも過去に何度か侵略にあったこともあるら少し心配しているようだった。


--------------------------


レンとアリッサお嬢さまの結婚式が近づいてきていた。

通常、貴族の挙式は、数年かけて準備を行うことが多いのだが、何か事情があるのだろうか。

二人の挙式の準備は何故か、ものすごいスピードで進められていた。


挙式があと1か月後にせまったある日。

火の魔法使いの一族である、レンの親類が、アスラル王国から呼び寄せられた。


「レンさまのご親族がご到着されたら、粗相の無いように」

侍従長が使用人たちに指示を出す。

俺たち兵士も、婚礼の儀にまぎれて変なやつが出入りしないようにと目を光らせていた。


ある日。

レンのことを忘れようと日々、努力していた俺に......素晴らしいことが起きた。

それは運命の出会いだった。


燃え盛るフェニックスの紋章がついた豪華な馬車が、ベルナルド家の門にゆっくりと入ってきた。

(あれがレンの親族......。火の魔法使いの一族の馬車......)


「なんて美しい馬車なんだ」

使用人たちがため息を付く。

漆黒に塗られた車体に黄金の縁取り。

優美な曲線と各所にあしらわれた炎のオブジェ。

闇のように黒い4頭の馬がその馬車を引いていた。


ゆっくりと馬車から降りてきたのは、青白い顔の紳士......おそらくレンの父親だろう。

古く使い込まれた長い杖を持っていた。

次に降りてきた人物を見て、俺の呼吸は止まった。


「ミナ!?」


レンの父親のあとから、馬車を降りてきたのは......

輝く長い黒髪にきらきらと光る大きな漆黒の瞳。

真っ白な肌。


ミナだったのである。




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