【アリッサ】
レンがプロポーズしてくれた。
「結婚して欲しい」
その言葉が何度も頭の中をこだました。
信じられない。
彼があたしのことを...... 娘としてじゃなくて、女性として愛してくれていた.......。
でも。
そっと下腹部に手を当てる。
あたしのお腹にはフィリップの子どもがいる。
「レン......あたし.....」
レンは不安そうな顔で、あたしの言葉の続きを待っている。
「あの.....と、とても嬉しい」
「えっ!?嬉しい?ほんと?」
レンの表情が明るくなる。
「......うん......だって、あたしもレンのことが好きだから。
でも......」
「でも......?」
レンはまた不安そうな顔に戻った。
言うしか無い。
あたしはゴクリとつばを飲み込んだ。
「その......あたし......妊娠しているの」
小さな声で彼にそう伝えた。
でも聞こえたと思う。
レンは、目を見開いた。
「妊娠......」
しばらく沈黙が続く。
沈黙が続いたあと、レンが言いづらそうに口を開いた。
「実は、フィリップと戦っている最中、聞かされた。
アリッサのお腹には自分の子どもがいるんだって。
ヤツはそう言っていた......それで俺はカッとなってしまって、炎で焼かれた......」
あたしは驚いて、息を呑んだ。
「レン......それじゃ、知っていたの!?」
「いや。ヤツが俺の気をそらすためについた嘘だと思ってたんだ」
レンは、悲しそうな表情でそう言って首を振った。
「まさか、本当だったなんて」
レンのツラそうな表情を見て、あたしは慌てた。
「あたしは、あなたと結婚できないって分かってる」
「どうして......?どうしてそんなこと、言うんだ?」
レンが驚いてあたしの顔を見る。
「だって......」
また涙が流れ落ちる。
「あたしはこの子を捨てることは出来ない。
親のいない子どもにしたくない。
寒い思いやひもじい思いをさせたくないの!」
「アリッサ......」
レンはあたしを抱きしめようと、手を伸ばした。
でも、あたしは一歩後ずさって、彼から遠ざかる。
「プロポーズは無かったことにして。
あたしは一人で、この子を育てるつもりなの」
「何、言ってんだ。
そんなのだめだ」
レンは、あたしの腕をつかむと自分のほうに引き寄せた。
あたしはそっと包まれるようにレンに抱きしめられた。
「俺のせいだ。
大蛇のやつに.......アリッサが.......」
レンはあたしを抱きしめながら、苦しそうに言った。
「レン......?」
「俺のせいだ。
俺がモタモタしてたから。
だから、アリッサは大蛇の子どもを身ごもるようなことになったんだ。
アリッサ、本当にごめん。
俺のせいだ」
「違うわ、レンのせいじゃない」
あたしは抱きしめられたまま、彼の顔を見上げた。
「俺もその子を育てる」
レンはあたしを抱きしめる腕をゆるめた。
そして、あたしのお腹のあたりをじっと見るとそう言った。
「そんなこと......だって、大蛇の子なのよ?」
「大蛇は許しがたい罪を犯した。
だが子どもには罪はない......しかもアリッサの血を分けた子だ」
「レン......でも」
「お願いだ、アリッサ。
俺と結婚して欲しい......その子を一緒に育てよう」
レンはそう言うと、またあたしを抱きしめた。




