【アリッサ】レンからのプロポーズ
「フィリップを倒したあとから、アリッサの態度が変わった気がする」
レンにそう言われて、あたしはドキッとした。
「態度が変わった......?あたしの?」
思わず口ごもる。
「うん。なんとなく......」
レンは首を少しかしげて、あたしをうかがっている。
レンにすべて話そうか......。
フィリップの子どもを身ごもっていることを。
レンのことが大好きだけど、お腹に子どもがいるから......
だから、彼を諦めるために、闇の森に遠ざけようとしたことを。
ふいに両親が言った言葉が思い出された。
【フィリップの子どもを出産したことが知れ渡れば、あたしは世間に顔向けができなくなる。
この先、誰もあたしと結婚はしたがらないだろう】
誰もあたしと結婚はしたがらない.....。
レンはとくに嫌悪するだろう。
レンを焼き殺そうとした、あのフィリップの子どもを身ごもっているだなんて。
しかもその子を捨てずに、育てるつもりでいるなんて。
モリィは手紙に、
【ご主人様はアリッサのことを女性として愛しています】
そう書いてくれた。
もしそれが本当にそうだとしたら.......心の底から嬉しい。
でも、あたしがフィリップの子どもを妊娠していると知ったら、きっと愛されなくなる。
それが怖かった。
だからあたしは逃げ出そうとしていた。
レンを自分から遠ざけて。
彼を自分の視界からみえないようにして忘れようとしていた。
考えがまとまらない。
グルグルと気持ちがいったり来たりする。
レンが口を開いた。
「アリッサがここにいても良いって言うなら......俺はいたい。
ずっとアリッサの側にいたいんだ」
そう言いながら、あたしの頬に触れた。
彼の手は温かかった。
「アリッサ。愛してる」
そう言うと彼は突然、あたしの足元にひざまずいた。
「レン!?」
彼の行動に、びっくりして声を上げる。
「俺は父親のような思いでアリッサを愛していると言ったけど、違うんだ。
アリッサを一人の女性として愛してる」
足元にひざまずくレンが、落ち着いた声で言った。
「......心から愛してる」
心臓がドクン、ドクンと鳴り響く。
彼の言葉に舞い上がるような喜びを感じた。
「俺はアリッサとともに、人間として生を終えたいと考えている。
だから魔法使いに戻る気はない」
「レン......だけど、レン、そうしたらあなたの寿命は縮まってしまう」
彼が魔法使いに戻らないのは何故だろうと、ずっと思っていた。
その理由が、あたしとともに生きるため......だったなんて。
そんなこと、思いもよらなかった。
「レン。そんな......」
魔法使いの寿命は人間の3倍はある。
このまま、彼が魔法使いに戻らないのであれば、のこり50年程度でレンは寿命を迎えてしまう。
「孤独に長く生きる意味なんて無い。
アリッサのいない人生なんて考えられない」
レンはあたしの足元にひざまずき、視線を下に向けたままそう言った。
「アリッサ・ベルナルド。俺と結婚してほしい」
レンはふいに顔を上げるとあたしをまっすぐに見つめた。
彼の漆黒の目があたしの目と合う。
体の奥底に電気が走るような、そんな感覚におちいる。
彼はいつだって、あたしのために行動してくれた。
高熱を出して、死の淵をさまよったときは、大蛇の生き血を命がけで手に入れてくれた。
そして、大蛇が故郷を奪い、あたしを連れ去ったときは、女の姿に化けて城に潜り込んだ。
命がけで大蛇と戦って、あたしを取り戻してくれた。
そして今は、あたしのために長い寿命と壮大な魔力を捨てようとしている。
「レン」
思わず涙がボロボロとこぼれ落ちる。
温かなものが胸の奥に広がった。
「返事はすぐじゃなくていい。
俺はいつまでも待ってる」
レンはそう言うと立ち上がった。
あたしとレンはしばらく見つめ合っていた。




