【アリッサ】
はぁっ、はぁっ.......。
息を切らして走って行くと、屋敷の正門にレンの姿が見えた。
彼は門柱によりかかるようにして、ぼんやり遠くを見つめている。
「レン......」
あたしが呼びかけると、レンはこちらに視線をうつす。
「アリッサ、走ってくること無いのに」
そう言うとフッと笑った。
彼はあたしの部屋で話したときにくらべて、やつれて顔色が悪かった。
その表情は暗く、目に輝きがない。
「食べ物も食べてないし、寝ていない。
レンは人が変わったように元気がないんです」
ディルの言葉が思い出される。
「アリッサ......お別れを言いに来てくれた?」
レンが、悲しそうに微笑む。
あたしは首をブルブルと横に降った。
涙がこぼれ落ちる。
やっぱりできない。
レンと別れるなんて、一生会えなくなるなんて無理だ。
彼の顔を改めてみて思った。
「どうして泣いてる?」
レンがあたしの側にきて、指で涙を拭いてくれた。
「泣きたいのは俺の方なのに」
「モ、モリィが亡くなったって」
あたしは震える手で、レンにモリィの遺骨の入ったガラスの小瓶を渡す。
「彼女の遺言なのよ。
レンの側にいたいって。
昨日、仲間の妖精があたしに届けてくれた......」
「そうか。
モリィが......」
レンは目を見開くと、小瓶を光にかざしてみた。
そして悲しそうに目を伏せると両手で小瓶を温めるように握った。
「なんとなく、そんな気はしたんだ。
あれだけの傷を負っていれば助かる可能性は低い......。
覚悟はしていた」
彼は、あたしの目をじっと見つめるとそう言った。
「あたしのせいなの。
あたしがフィリップに心を読まれて......それでモリィは彼に見つかって」
「アリッサ」
レンはあたしをそっと抱きしめると、髪を撫でる。
「それは違う。自分を責めてはいけない」
彼に抱きしめられて、体の芯が熱くなる。
大きな手で優しく髪を撫でられて安心する。
「もう、モリィの故郷に行く必要はないんだな。
彼女は、俺のもとに戻ってきた」
レンはガラスの小瓶を胸のポケットにそっとしまった。
彼の目はきらきらと輝いていた。
泣くのを我慢しているのかもしれない。
「アリッサ、教えに来てくれてありがとう。
俺は、闇の森にまっすぐ帰ることにする」
「......」
彼の言葉にあたしは、目を見開いた。
「闇の森に......帰るの......?」
小さな声でたずねる。
「アリッサが、そうして欲しいって言ったから。
帰れと言われているのに、いつまでも居座るほど、俺は厚かましくない......」
レンはそう言って、そっとあたしから離れると、馬のたてがみをゆっくりとなでた。
いまにも馬に飛び乗って、行ってしまいそうだった。
「行かないで!!」
思わず、大きな声で叫んだ。
レンはあたしの言葉に驚いた顔をする。
当然だろう。
数日前に「帰れ」って言われたばかりなのだから。
「ごめんなさい。レン......ごめんなさい。
振り回して......でもやっぱり......無理なの」
また涙が流れ落ちる。
「俺はここにいてもいいのか?
......すごく嬉しい。
でも一体どうしたんだ。
いつも、一度決めたことは変えない頑固なアリッサなのに。
なんだかアリッサらしくない気がする......」
レンは再び馬から離れるとあたしの側にきた。
そして、あたしの顔をじっとのぞき込む。
「何かあるなら話して欲しい。
フィリップを倒したあとから、アリッサの態度が変わった気がするんだけど」
あたしは彼から目をそらした。




