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どこまでもつづく道の先に  作者: カルボナーラ
アリッサのお腹の子どもと火の魔法の継承
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【レン】・【アリッサ】


【レン】



「アリッサ、最近、あまり話せてなかったよね」

俺がそう言うと、彼女は首を少しかしげ

「そうね」

とみじかく答えた。


彼女は、部屋の中央にあるソファに腰掛けると

「レンも座って」

と向かいのソファを指さした。


「うん......」


どことなくアリッサの態度がよそよそしい。

俺......なにか、彼女を怒らせるようなこと、しただろうか。


「それで......なにか御用?」

アリッサがローテーブルに飾られた花に目をやりながら、俺に聞いた。


(なにか御用......って......。

......冷たい言い方だよな。

前はもっと距離が近かった気がするのに。

アリッサは、一体どうしちゃったんだろう......)


愛してるという気持ちを伝えに来たはずなのに、彼女の冷たい態度に俺は急速に自信をなくした。


「......2週間ばかり留守することになりそうなんだ。

それを伝えておこうと思って......」

俺がそう言うと、アリッサが俺をじっと見つめた。

でもすぐに、目をそらすと

「そう......」

とだけ言う。


留守にする理由も聞いてくれないんだな。

俺には、もう興味がないのかも。


「モリィの故郷に行こうかと思ってるんだ」

聞かれてもいないのに、俺は留守にする理由を彼女に話した。


「モリィの故郷」

アリッサがポツリとつぶやく。


仮面のように整ったアリッサの表情が「モリィ」という言葉によって、はじめて揺らいだ。

彼女の目が不安そうに泳いでいるのに、俺は気づいた。


「そうだ。

戦いの全てが終わったら、必ず迎えに行くって......。

別れ際に手負いのモリィにそう伝えたんだ」


「そう......なのね」

アリッサは小さくため息を付いた。


しばらく沈黙が続く。

なんとなく気まずかった。


アリッサが口を開いた。

「レンは、もう闇の森には戻らないの?」


「闇の森?」

「そうよ。レンの屋敷がある。

あそこにいずれは戻るんでしょう?」


「まるで、すぐにでも戻って欲しいみたいな言い方だな?」

俺は、アリッサのあまりにも冷たい態度に傷ついて、思わず言い返してしまう。


「......」

アリッサはそんな俺の言葉に反応せず黙っている。


「もう、俺は必要ないってことか......」

アリッサの、あまりの扱いに、俺はソファからスッと立ち上がった。


「大蛇も倒したし、故郷も取り戻した。

俺は、ここにいても何の意味もない......ってアリッサはそう思ってる?」


(違う......って言って欲しい。

レンにいつまでも、側にいて欲しいって言って欲しい)

俺は子どもみたいに、そんなことを願いながら言った。


ところがアリッサは、ゆっくりとうなずいた。


「そうよ......。あなたは、大蛇から取り戻した赤い玉を身体に取り込むべきだわ。

そして火の魔法使いとして、闇の森に戻るべきなのよ......」


「アリッサ......。本気で言ってる?」

俺は、ソファから立ち上がったまま彼女の顔を覗き込んだ。

悲しくて胸が張り裂けそうだった。


「......」

アリッサは俺をチラリとみたあと、視線を外した。


「さぁ、出ていって。

モリィの故郷に行って。

そしてその足で、闇の森に戻るといいわ......」


アリッサはソファから立ち上がると、俺に背を向けた。

「アリッサ......俺は」


アリッサのことを愛してる。

そう言いかけたけど、口をつぐむ。

言ったって、きっと断られる。

そんなふうに思った。


大蛇を倒して、ようやくアリッサと結ばれるかもしれない。

そんな期待があった。

バカだな。俺は。


「分かったよ。アリッサ......俺は闇の森に帰る」

静かな声で彼女に伝えた。

「いままでありがとう......」


「さようなら、アリッサ」

アリッサは最後まで俺のほうに振り返ってくれなかった。


【アリッサ】


「さようなら、アリッサ」

レンはそう言うと、部屋から出ていってしまった。


彼が部屋から出ていき、扉が閉まった途端、あたしは床にしゃがみこんだ。


「......っ」

涙がポタポタとひざの上にこぼれ落ちる。


レン......レン......。

こんなに愛してるのに。

さようならだなんて......。


レンを闇の森に追い返すようなことを言った。

自分の気持とは全く正反対の態度を取ってしまった。


「うっ......」

急に込み上げてきた吐き気に、洗面室の方へとむかう。

桶に少し吐いてしまった。


父と母には打ち明けてある。

大蛇の子どもをお腹に宿しているということを。


両親は、あたしに言った。

内密に出産し、子どもは誰にも見つからないように、街の修道院に入れれば良い......そう言った。

そうすれば、あたしは、新たに誰かと結婚することも出来るしやり直すことが出来ると。


でもあたしは、首を縦に振らなかった。

お腹に宿った子どものことが日に日に愛おしくなっていた。


大蛇フィリップのことは今でも恨んでいる。

思い出すだけでもゾッとするし、彼のしたことが許せない。


でも......。


お腹の子どもを、あたしは愛し始めていた。

憎むことなんて出来なかった。


両親は言った。

フィリップの子どもを出産したことが知れ渡れば、あたしは世間に顔向けができなくなると。

この先、誰もあたしと結婚はしたがらないだろうと。


それでも良いと思った。

子どもを厳しい戒律のある修道院に入れて、ひもじい思いをさせるなんて、できない。

泣いても誰も抱き上げてくれない......そんな場所に置いてくるなんて、あたしにはできない。


ただひとつ......


あたしは、レンのことを心から愛していた。


彼の姿を見るたびに、胸が苦しくなった。

彼に抱きしめてもらいたい。

以前のように髪を撫でて欲しい。


あたしは彼に夢中だった。


でも。


あたしのお腹の中には、大蛇の子がいるのだ。

これ以上、彼がそばにいたら、苦しくなるだけ......。

あたしは彼のことを忘れなければいけない。


レンは闇の森に戻って、魔法使いとして生きて欲しい。

あたしから遠く離れて.......。

きっとそれが、彼にとっての幸せ。

それが自然の摂理なのだから。


「アリッサ......。本気で言ってる?」

そう言った彼の悲しそうな顔がよみがえる。


「レン......愛してる」

あたしはつぶやいた。

彼の黒髪に触れたい。

優しい笑顔をもっと見ていたい。


でも......それは叶わない夢だと分かっていた。




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