【レン】アリッサの護衛に
アリッサの誕生日パーティは、俺の登場のせいで微妙な空気のなか、幕を閉じた。
俺は花婿候補たちを注意深くながめた。
すくなくとも、太っちょの金髪男は大蛇じゃないだろうな。
あいつは口汚くののしるのだけが得意な臆病者の小物だろう。
そうなると......怪しいのは、あの神官と赤毛の男か......?
神官の男と目が合った。
やつは、俺と目が合うと、じっと見つめ返してきた。
慌てて目をそらさないところが返って怪しい。
あいつが大蛇かもしれない。
ふいに誰かに肩を叩かれた。
「火の魔法使い。
お前は今日からウチの兵士だ。
最初は誰でも最下級の「一兵卒」からだ。
部屋は大勢と雑魚寝、食べ物は粗末だし、雑用をしてもらうことになる。
いくら百戦錬磨の魔法使いだからといって特別扱いはできないからな」
ふりむくと、兵士のなかで一番偉そうにしてる男が俺の後ろに立っていた。
「一兵卒?
なんだか分からんが、そういう決まりなら従うまでだ。
俺のことはレンとよんでくれ」
「俺は隊長のシュウだ。
俺のことは隊長とよべ。敬語をつかうんだ」
「敬語......」
腹ただしいことこの上ないが、我慢するしか無いだろう。
「今から、お前を兵舎に案内する。
ついてこい」
「......」
シュウは背中をむけて、大股で歩き始めた。
パーティ会場の大広間から出ると長い廊下を歩き始める。
「まって、シュウ」
背後からアリッサの声がした。
「お嬢さま」
シュウは驚いて振り向いた。
「レンは怪我してるわ。
手当しないと」
「大丈夫だ。
かすり傷だし」
肩の傷をしらべた。
傷は浅いし、腱も切れていない。
俺の目の前で、アリッサは心配そうにこちらを見ている。
5年前はほんの子どもだったのに......。
アリッサは美しく成長していた。
背も伸びたんじゃないのかな。
オカッパだった髪の毛は腰まで伸びてる。
「アリッサ、ほんと大きくなったな。
好き嫌いせずによく食べてるか?
怖い夢はみてないか?」
「お前、失礼だぞ!!お嬢さまと呼べ!!」
隊長が、俺に向かって怒鳴った。
「レン......会いたかったわ......とても。
5年の間、忘れたことはなかった」
「俺もだ。
風邪は引いてないか、ちゃんと食べてるか、いつも気になってた」
アリッサに向かって微笑む。
「シュウ!
レンは、今日からあたしの護衛になってもらう。
シュウの代わりね」
「お嬢さま!そんな......。
お嬢様のおそばにいたいです。
私では不満でしたか!?」
隊長は、アリッサの前でオロオロしはじめた。
「違うわ。
レンは、あたしの大事な人なの。
だから」
しばらく沈黙が続いた。
やがて隊長は大きくため息を付いた。
「お嬢様は一度こうと決めたら、それを変えない。
仕方がないですね。とても残念ですが......。
パトリックさまにきちんとご了承を得てくださいね」
隊長は俺をにらみつけながら、去っていった。
「あ~ぁ、あいつなんか、怒ってるぞ。
俺の上官なのにな」
隊長の背中を見送りながら、頭をボリボリとかく。
「大丈夫よ。
シュウはとても優しいから」
アリッサは俺に向かってニッコリと微笑んだ。
アリッサの笑顔だ。
まるで花がぱっと開いたかのような。
俺の大事な子ども。
アリッサが元気そうで良かった。
必ず大蛇から守ってやるからな。
俺は人間になってしまったけど、その辺の男よりも戦の経験はあるんだ。
きっと本物の父親よりも、俺のほうが強い。
娘をきちんと守って幸せにして見せる。
「レン、あたしの部屋に来て。
肩の傷を手当するから」
「大丈夫だよ。
もう血も止まってるし」
「だめよ」
アリッサは俺の腕を取りグイグイと引っ張った。




