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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第一章 柊響と早川貴子 その1
9/334

9 チーちゃんの動揺

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子で早川智子の姉

挿絵(By みてみん)



「キーちゃんは人見知りだからといって、心の中までおしとやかだとは限らないんだ!」

 チーちゃんは両手を広げて、オーマイガーを連呼するアメリカ人のような顔をしてそう言った。

「だいいち、骨の髄まで引っ込み思案な人だったら、人前で歌おうなんて思わないですよ」

「そりゃあ、そうだよな」

「でしょ」

「お前、ほんとは頭いいんだな!」


 ニコニコ顔のチーちゃんがまたわたしのこめかみをグリグリしてくる。わたしは慌てるふりをして、チーちゃんの平たい胸をひそかに狙う。

 チーちゃんはわたしの成績のことを知らない。

 ただのアホな女子として接してくれる。

 それがとってもうれしい。


「でもさ、もしそうだとすると、キーちゃんはあたしにぜんぜん心を開いてくれてなかった、ってことになるよな」

「そうですね」

「で、人前で歌いたいっていうのは、やっぱ傲慢さの証しだよな」

「そう思います」

「それって、結構ショックだな……」


 チーちゃんがわたしから目をそらす。

 その視線の行く先は遠く遠くの巨大な白い塊──立山だ。

 立山はいつだって富山県民を見守っている。

 わたしたちが人生に行き詰まったとき、そこにはかならず立山がある。

 立山様がそばにいる──。

 そういう存在があることがいかに恵まれていたのかは、富山を出たことのない当時のわたしにはわからなかった。


「あたしは一人っ子だからよくわかりません」

 わたしも立山を眺めながら独り言のように言った。

「ですが、とても近いからこそ、言えないこともあるんじゃないでしょうか?」

「……」

「すでに関係が出来上がっていて、その関係を大事に思うからこそ、関係が崩れるようなことはぜったいにしてはいけない、という覚悟のようなものがあるんじゃないでしょうか?」

「……あたしにはわからないよ」

 チーちゃんは立山に向かって言った。

「あたしはそんなこと考えたこともない。だってキーちゃんとあたしの絆は絶対だから。どんなことがあっても崩れないっていう自信があるから」

「キーちゃんもおんなじように思っている、という自信はありますか?」

「あ、当たり前だろ! キーちゃんとあたしの絆は絶対なんだよ!」


 わたしにとってチーちゃんは、〈ほんと、この人にはなにからなにまでひとつも敵わないな〉と嘆きたくなるような人であってほしかった。

 わたしをアホ扱いして、小突き回して、〈まったくしょうがねえやつだなあ〉と苦笑いしてくれる人であってほしかった。

 だから、動揺するチーちゃんを見るのは辛かった。


 姉は妹のすべてを肯定してきたのだろう。

 女の子らしさのかけらもないチーちゃんの言動は方々で非難され続けてきたにちがいない。

 しかしキーちゃんだけはすべてを認めてくれた。

 チーちゃんには、キーちゃんの肯定だけが支えなのだ。

 だからチーちゃんにとって、キーちゃんは()()でなくてはいけない。


 それはチーちゃんの身勝手だ。


 しかしすべてを肯定するキーちゃんは、そんな身勝手をも引き受けてしまったのだ。


 わたしはキーちゃんを解放してあげたい。

 キーちゃんならエラの歌がきっと歌える。

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