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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
74/334

73 一人

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・久保田友恵(トモちゃん)柊響の同級生で友だち

挿絵(By みてみん)


 一人で帰る帰り道は思いのほか悪いものではなかった。

 集団の中でぼっちでいるのはなかなか辛いだろうが、路上で一人でいるのは逆にすがすがしかったりもした。すくなくとも昨日の地獄のようなメンツでの帰り道にくらべたら天国だった。

 一人で黙々と歩いているだけなのに、不思議にも心が満たされていく。

 今日起きた他愛もない色んなことの記憶が、頭に浮かびそうになる寸前で無意識という水中にとどまり、形のない感情だけが蜃気楼のように胸の中に立ち昇ってくる。そんな夢の余韻のような感覚がうっとりするほど心地よかったので、空を覆いつくす灰色の分厚い雲もわたしの心を陰鬱にしたりはしなかった。……なんちゃって。

 湿った地面と低い雲の間に大きく居座るのは、清らかな白装束をまとった立山。そのあまりにも大きな威容は、わたしという存在が、クラスが、学校が、とてもとてもちっぽけなものなんだと教えてくれる。そして、わたしの中の楽しい感情の記憶はそのままに、嫌な感情の記憶だけをちっぽけなものに変え、消し去ってくれる。そうやって、何の見返りも求めないまま、わたしたちを見守り続けてくれる。

 一人で帰る人はかわいそうだと思っていた。

 わたしはバカだった。

 いまのわたしは〈嬉しい〉や〈悲しい〉なんかとは違う、言葉にならない薄桃色の感情ですっかり満たされていて、うっかりしていると泣いてしまいそうだった。


 かわりに朝はひびきちゃんと一緒に登校する。はじめのうちはひびきちゃんの希望もあって、学校から近いひびきちゃんが学校から遠いわたしの家までわざわざ迎えに来てくれていた。しかしこのところひびきちゃんは疲れている様子だったので、わたしがひびきちゃんの家へ迎えに行っている。

「おはよー」とわたしが言う。

「おはよー」とひびきちゃんが、かなり沈んだ声で言う。

「ねえ大丈夫? 死にそうな声なんだけど」

「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

 そう言うひびきちゃんはすっかり猫背で、目もどんよりしている。

「ホントそうだよ。やっぱり三年生に勉強を教えるなんて、いくらひびきちゃんが頭よくてもムリなんだよ」

 わたしがそう非難すると、ひびきちゃんは力なく笑って首を横に振った。

「いいや。勉強はね、ちょろいんだ」

「うそばっかり」

「入試問題の八割はホントにちょろくて、一割がわりと頭を使う問題、さいごの一割が時間内に解くのが大変な問題なんだ。そんで、バンドの人たちの志望校は、ちょろい八割がちゃんとできれば合格できるんだ」

 そう言ってひびきちゃんは、はあーっ、と大きくため息をついた。

「じゃあ、勉強が順調に進んでないの? ひびきちゃんにはちょろくても、ほかの人にはぜんぜんそんなことないんだからね」

「ちがうよ。とっても順調なんだ。どんどんできるようになっている。だいたいさ、楽器を弾いたりして、手先をよく使う人は頭もいいって相場が決まってるんだ。だからこのままいくと、八割とるための勉強はたぶん予定より早く終えられるんじゃないのかな」

 猫背のひびきちゃんは小さな声でボソボソとそう言ったが、言っている内容は自信満々のひと言に尽きる内容だった。

「いいことばっかりじゃない。じゃあ、さっきのはなんのため息なの?」

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