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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第一章 柊響と早川貴子 その1
7/334

7 目覚め

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子で早川智子の姉

挿絵(By みてみん)



 目が覚めると、わたしはチーちゃんの部屋のベッドの上にいた。


「あれ?」

「あれ?じゃねえよ。お前、急にぶっ倒れたんだぞ。覚えてねえのか」

「いえ。……すみません」

「ったく。お前はコカイン中毒者かよ」

 あー、やっぱチーちゃんはロックンローラーなんだなあ。

 クラプトンの「コカイン」が頭に浮かんだわたしはサビを口にしてみた。

「♪ She don't lie She don't lie She don't lie 〜」

「「コケーイン」」

 見事にハモったわたしたちは爆笑した。

 

「貴子さんは?」

「バイトに行ったよ」

 キーちゃんは8番らーめんでせっせと働いているという。えらい。

「あたしのこと、キモい死ね、とか言ってました?」

 もしそうなら、わたしはキーちゃんをきっぱり忘れることができる。そして精神の安寧はふたたび保たれるのだ。


「中二病」

「え?」

「中二病って面白いね、って言ってたぞ」

「それだけですか?」

「ああ」

「傷ついて涙を流したり、トラウマで青ざめたりしてはいませんでした?」

「んなわけ……、ひーっ」

 チーちゃんはしばらく笑い転げていた。


 わたしは自分が思うよりもずっと子供で、キーちゃんはずっと大人だった。

 わたしはちょっと裏切られた気分がした。

 裏切りも何も、自分が勝手に妄想していただけの話なのに。



 ウチの両親は音楽好きなので、いまだに銀色の大仰なオーディオが居間に鎮座している。

 父さんは小島麻由美が大好きで、その影響でわたしもすっかりファンになった。

 母さんはスガシカオのファンで、最近になってわたしにもスガシカオの歌詞の意味がわかるようになってきた。

 どうやら母さんは、Sっ気のある優男(やさおとこ)に無茶苦茶にされるのが好みらしい。だから父さんとは違って、音楽の面で母さんとわたしはわかりあえるところがあまりない。


 ウチにはCDが何百枚とあるが、音楽サブスクのせいで最近はCDもCDプレイヤーもすっかり埃をかぶっていた。

 夕食後、わたしは父さんと母さんにキーちゃんのCDを聴かせた。

 タンノイのスピーカーがキーちゃんの歌声を部屋中に満ち渡らせる。

 目を閉じて聴いてみて、とわたしが言う。

 二人が目を閉じたのを見て、わたしも目を閉じる。


 キーちゃんがすぐそばで歌っているようだ。

 いい声だね、と父さんが言う。

 そうね、と母さんが言う。

 わたしはもう泣かなかった。

 わたしは都会のショービズ界に巣立っていく娘を見送る、さびしい田舎の母親の気分だった。


 わたしたちは三〇分ほどのCDを聴き終えた。

「すごいでしょ。こんなに透明感のある声、ほかにいないでしょ」

 キーちゃんの声は唯一無二なのだ。

 しかし、

湯川(ゆかわ)潮音(しおね)に似ているね」と父さんは呟いた。

「そうね」と母さんも頷いた。

「え? ちょっと、誰それ?」


 父さんが湯川潮音のCDをかける。

「……」

 わたしは悲しくなった。

 確かに似ていた。

 唯一無二ではなかったのだ。

 そして自分にとって一番ショックだったのは、湯川潮音を聴いてからというもの、キーちゃんの歌声が、湯川潮音に似ている人の声、としか認識できなくなったことだ。

 このまま東京に出ても、あるいは地元で頑張っても、YouTubeで配信しても、キーちゃんはキーちゃんとしてではなく、湯川潮音に似ている人、で終わってしまう。


 ……そんなことがあってたまるか!

 なにか、わたしにできることはないだろうか?

※ クラプトンの「コカイン」はこちらで聴けます。https://www.youtube.com/watch?v=O6yeLNNVa4A

※ 湯川潮音さんの美声はこちらで聴けます。https://www.youtube.com/watch?v=vGg1AXt6Lck

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